【2】崩壊の地へ

4/10

99人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
〜警視庁凶悪犯罪対策本部〜 東京台場にある30階建ての総合本部。 隣にあるTERRAコーポレーションの70階建て高層ビルとは、3階の連絡通路と地下通路で繋がっている。 3階には刑事部があり、今刑事課は2つの連続事件に逼迫(ひっぱく)していた。 今日も朝から刑事課フロアにある会議室で、捜査状況の確認と、今後の作戦に苦悩している。 「とにかく、既に帝銀の渋谷、上野、霞ヶ関支店が襲撃され、現金にして約8億円が奪われている。これ以上の被害は、警察の面子に懸けても防がねばならん!」 刑事部長の富士本(ふじもと)恭介(きょうすけ)が、メンバーの気合いを入れ直す。 「霞ヶ関支店なんて、警視庁本部からわずか500m。完全に舐められてるわね。戸澤、桐谷、犯人の目星はどう?」 刑事課長に昇格したベテランの鳳来(ほうらい)(さき)。 ミニスカ&ハイヒールは健在である。 「車は毎回違う車種で、ナンバーは偽造。使い捨てられた車すら見つからない。お手上げだよなぁ、昴?」 元公安の切れ者、戸澤(こざわ)公紀(きみのり)が、システム・分析担当の神崎(かんざき)(すばる)に同意を求める。 「はい、監視カメラの少ないコースを通り、ある監視カメラは、寸前に壊されてたりで、全く追えてません」 「恐らく車は塗装し直すか、廃車処理しているものと考えられます。しかし…ちょうど現金が集まってるタイミングの犯行には、内通者の可能性が高いと見て間違いなしね」 元CIA諜報員の経歴を持つ桐谷(きりたに)美月(みつき)。 末期癌の死を、トーイ・ラブの血とTERRAの医療技術により救われ、ここにいる。 「なるほど…帝銀に恨みを持つものかと思ってたけど、同じ銀行なら内通者の線もあるわね」 「各支店の現金輸送日などは、かなり極秘のはず。それを知り得る者をリストアップし、調査を始めたところよ」 「部長、各支店には所轄に協力要請して、見回りを強化しています」 部長秘書兼捜査員の土屋(つちや)香織(かおり)。 戸澤の妻でもある。 「現行犯逮捕しか手はないってことだな。よし、分かった。紗夜と淳一の方は、何か進展あったか?」 宮本紗夜と淳一夫婦。 紗夜は、幼少期から盲目であった期間が長く、嗅覚や聴覚、そして人の感情感知力に優れ、更には読心と言う特殊能力を持つ。 「それが…海上保安庁と連携して調査していますが、未だクルーザーは見つかっていません」 「爆発した破片や痕跡はないし、レーダーから突然消えたなんて、わけわかんねぇぜ。防衛大臣と運輸大臣を狙って、船ごと誘拐か?」 お手上げポーズをとる淳一。 「沈没にしても、200人余りの乗客がいて、誰一人見つからないなんてあり得ないわね」 東京湾シンフォニーディナークルーズ。 豪華なモデルナ号は、全長83m、幅13メートル、乗客数600名の大型クルーザーである。 日の出桟橋を出航後、レインボーブリッジ、東京ゲートブリッジの下を通過し、東京ディズニーリゾートを始め、東京都内や羽田空港の景色を眺める人気のクルーズである。 運輸大臣の息子と、防衛大臣の娘が結婚し、2人はそのウェディングパーティを主催した。 レインボーブリッジを抜け、沖で左転したところで、突如監視していたレーダーから消えた。 閣僚関係者も多く乗船しており、突然の失踪に政界もマスコミも大騒ぎしている。 東京湾には、数々のクルージングがあり、警察には連日再開の催促が寄せられていた。 「自衛隊のレーダー船も、海底探査に加わるそうだ。しかし…困ったものだな」 被害者が著名人やその家族であり、捜査状況の報告には花山警視総監も出席し、その度に責められている2人であった。 連続帝銀襲撃事件と、2人の大臣を含めたクルーザー失踪事件。 手がかりすら掴めていない事件に、嫌な空気が渦巻いていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加