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〜警視庁凶悪犯罪対策本部〜
東京台場にある30階建ての総合本部。
隣にあるTERRAコーポレーションの70階建て高層ビルとは、3階の連絡通路と地下通路で繋がっている。
3階には刑事部があり、今刑事課は2つの連続事件に逼迫していた。
今日も朝から刑事課フロアにある会議室で、捜査状況の確認と、今後の作戦に苦悩している。
「とにかく、既に帝銀の渋谷、上野、霞ヶ関支店が襲撃され、現金にして約8億円が奪われている。これ以上の被害は、警察の面子に懸けても防がねばならん!」
刑事部長の富士本恭介が、メンバーの気合いを入れ直す。
「霞ヶ関支店なんて、警視庁本部からわずか500m。完全に舐められてるわね。戸澤、桐谷、犯人の目星はどう?」
刑事課長に昇格したベテランの鳳来咲。
ミニスカ&ハイヒールは健在である。
「車は毎回違う車種で、ナンバーは偽造。使い捨てられた車すら見つからない。お手上げだよなぁ、昴?」
元公安の切れ者、戸澤公紀が、システム・分析担当の神崎昴に同意を求める。
「はい、監視カメラの少ないコースを通り、ある監視カメラは、寸前に壊されてたりで、全く追えてません」
「恐らく車は塗装し直すか、廃車処理しているものと考えられます。しかし…ちょうど現金が集まってるタイミングの犯行には、内通者の可能性が高いと見て間違いなしね」
元CIA諜報員の経歴を持つ桐谷美月。
末期癌の死を、トーイ・ラブの血とTERRAの医療技術により救われ、ここにいる。
「なるほど…帝銀に恨みを持つものかと思ってたけど、同じ銀行なら内通者の線もあるわね」
「各支店の現金輸送日などは、かなり極秘のはず。それを知り得る者をリストアップし、調査を始めたところよ」
「部長、各支店には所轄に協力要請して、見回りを強化しています」
部長秘書兼捜査員の土屋香織。
戸澤の妻でもある。
「現行犯逮捕しか手はないってことだな。よし、分かった。紗夜と淳一の方は、何か進展あったか?」
宮本紗夜と淳一夫婦。
紗夜は、幼少期から盲目であった期間が長く、嗅覚や聴覚、そして人の感情感知力に優れ、更には読心と言う特殊能力を持つ。
「それが…海上保安庁と連携して調査していますが、未だクルーザーは見つかっていません」
「爆発した破片や痕跡はないし、レーダーから突然消えたなんて、わけわかんねぇぜ。防衛大臣と運輸大臣を狙って、船ごと誘拐か?」
お手上げポーズをとる淳一。
「沈没にしても、200人余りの乗客がいて、誰一人見つからないなんてあり得ないわね」
東京湾シンフォニーディナークルーズ。
豪華なモデルナ号は、全長83m、幅13メートル、乗客数600名の大型クルーザーである。
日の出桟橋を出航後、レインボーブリッジ、東京ゲートブリッジの下を通過し、東京ディズニーリゾートを始め、東京都内や羽田空港の景色を眺める人気のクルーズである。
運輸大臣の息子と、防衛大臣の娘が結婚し、2人はそのウェディングパーティを主催した。
レインボーブリッジを抜け、沖で左転したところで、突如監視していたレーダーから消えた。
閣僚関係者も多く乗船しており、突然の失踪に政界もマスコミも大騒ぎしている。
東京湾には、数々のクルージングがあり、警察には連日再開の催促が寄せられていた。
「自衛隊のレーダー船も、海底探査に加わるそうだ。しかし…困ったものだな」
被害者が著名人やその家族であり、捜査状況の報告には花山警視総監も出席し、その度に責められている2人であった。
連続帝銀襲撃事件と、2人の大臣を含めたクルーザー失踪事件。
手がかりすら掴めていない事件に、嫌な空気が渦巻いていた。
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