通り過ぎない通り雨

3/42
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
そこへ泣きながら美人が言ってきた。 「お布団......干してきちゃった......」 「えっ? ええええええええええええええええーっ!!!」 悪魔さえも驚愕するほどの衝撃の事実を告げられた......。 「しかも敷布団で、綿がぎっしりで、買ったばかりの新品......」 その言葉に追い討ちをかけるかのように、空から地面へと マシンガンを乱射するような激しい無数の雨が、無残にも 撃ちつけられていく。 「ごめんなさい。話しかけられたら......込み上げてきちゃって」 美人は細い手と指で小さな顔を覆って、さらに泣いた。 「いやいやいや、話しかけた俺が悪かった。 知らなかったとはいえ......」 悪魔を謝罪させてしまうほどの悲壮感だった。 「だから、店に入ってくつろぐ余裕なんてなくて」 「そ、そうだよなあ、そりゃ俺だってそうなるよ、うん」 「どうしよう......」 「どうしようたって、仕方ねえだろ、そんなの。 あんなにガンガンに晴れてたら、誰だって干したくなるだろうし。 いやでも、さすがに布団はなあ......とんでもねえなあ」 悪魔の言葉が更に彼の感情を揺さぶってしまった。 「両親に迷惑かけちゃった」 「いやだからそれは」 「もうこれ以上......両親には迷惑かけたくないのに...」 「はあ?」 「死にたい......」 「だああああっ!もうっ!俺は女の涙には弱いんだよっ!!」 と、雨音に負けないほどの大声を出した悪魔は、美人を抱き上げた。 いまの時代で言うところの、お姫様抱っこである。 美人は驚くほど軽く、何事かとおもうほど、骨ばっていた。 「おまえ、飯、ちゃんと食ってんの?」   咄嗟に初対面の人間を抱きかかえた時点で強引なのに。 更に遠慮なく悪魔は言った。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!