通り過ぎない通り雨

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唐突に強引に告白してきたが、無理矢理には襲わない。 悪魔の言葉を信頼して、彼は一緒に夕飯のカレーを作り始めた。 悪魔は大きな手と指で無表情な顔で、器用に包丁を使いこなす。 そうして少しの会話をしながら、互いが自己紹介をしていないと ようやく気づいた。 「僕は『星野原清音(ほしのはら きよね)』っていいます。  星の野原に清らかな音って書くんです」 「名前まで綺麗だな......」 「悪魔さんは、なんていうんですか?」 「セディアーテレールーサーベルロ」 「えぇっ?かっこいいけど長すぎます」 「名前に文句つけてくんな」 「短く呼びたいです」 「だったら好きに呼んでいいぞ」 「えっと......じゃあ、セロで!」 「はあ?」 悪魔は切ったニンジンを一つ床に落としてしまった。 「名前の最初と最後を、くっつけてセロ!」 清音は木漏れ日のようなきらめく笑顔で言ってきた。 こうして悪魔の名前は『セロ』になったのだ。
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