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それからというもの、セロは清音の自宅を訪れるようになった。
正確には、瞬間移動の能力で玄関に鍵をかけても侵入してきた。
清音は最初は困惑していたが、次第にその存在を受け入れた。
友達もいない清音にとっては、初めて仲良くなれた相手でも
あったからだ。
清音の父親は会社員で、母親はスーパーでパートをしている。
朝、両親より早くに起きて朝食と弁当を清音が作って、2人を
見送り、日中は家事全般をこなして、軽めで少量の昼食を取り
疲れたらベッドで横になって、少し回復すると座椅子に座って
本を読んだりして過ごす。
その淡々とした日常において。
セロは自由に、誠実に、清音のそばにいた。
一階にある和室の居間で、テレビを観ていたのに、家事を始めると
手伝ってきたり、階段を上るとき支えてくれたり、休みたいときに
抱きかかえてベッドまで連れていかれたりした。
清音が本を読んでいるときにセロが話しかけてくることはなく
本を閉じて清音のほうから話しかけると、会話をしてくれた。
買い物に行くときは同行してくれて、重い物は持ってくれた。
清音は、こんなに誰かに気遣ってもらえたことも初めてだった......。
清音には明確な病名はない。
現代医療なら解明されるのだろうが、その時代に適切な治療法は
開発されていなかった。
清音は自分の身体の弱さに負い目があったが、周囲にはそれを見せず
明るく振舞っていた。
『丈夫に産んであげられなくて申し訳ない』と......。
両親に責任を感じてほしくは無かったからだ。
そうして、寂しいときも、苦しいときも、不安なときも
両親には頼らず、独りで抱え込むクセがついてしまった。
そんな清音には、セロの存在は次第に救われるものになっていった。
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