通り過ぎない通り雨

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「清音、お風呂あいたわよ」 と、母親が声をかけてきた。 「うん、はいるよ」 と、清音は返事をした。 セロと2人で、居間でくつろいでいる状態で......だ。 夜でも、清音の両親が自宅にいるときにでも、セロは居る。 しかし両親にはセロの姿はみえていない。 いや、認識できていないのだ。 セロは清音以外の人間には『気配を消している』と、聞かされた。 付き合いがめんどうなのだと。 両親があっさりとセロを素通りして廊下を歩いたり、清音の部屋に セロが居ても、清音にだけ対応してくる。 清音は時折り、セロが存在していないように思えた。 病気で苦しむ自分が作り出した『理想系の幻覚』とか そういう現象ではないかと......。 こんなにも何もかも助けてくれる相手なんて、出来過ぎている。 そんな気持ちになってしまうと、清音はセロの身体に触れてみた。 腕を組んでみたり、座っている背中にもたれてみたり......。 その身体には確かなぬくもりがあった。 それでも、どうしても、そこに存在しているのだと 実感できないときもあった。 「セロ、今夜は僕と一緒にベッドで寝てくれませんか?」 そろそろ寝る時刻である夜更けに、清音が言ってきた。 あまりにも唐突な言葉に......。 読んでいた本を、セロは床に落としてしまった。
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