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それは、とてつもない美人だった。
年齢は十代後半といったところだろうか。
その美人は、お洒落には程遠く、白いシャツに黒いズボンに
スニーカーで、薄手の水色のカーディガンを着ていた。
衣服からのぞく細く儚げな首筋や手足。
陶器のように白い滑らかな肌。
細面の小さな顔。
影を落とすほど長いまつ毛。
猫のように大きな瞳。
形よく通った高い鼻。
ほどよくふっくらとした唇。
肩にかかるほどの黒々とした艶のある髪。
むしろ着飾る必要もないほどの美しい素材を持ち得ていた。
たまらないな......スレンダーでボーイッシュな美人は新鮮だ。
悪魔は吸い寄せられるように、その人物へと近づいていった。
「お嬢さん、みたところ雨宿りですね。
しかし喫茶店の前とは都合がいい。
俺がおごりますよ。店に入って、ひと息つきませんか?」
身長が183センチの悪魔は、162センチの相手へと身体をかがめて
顔をのぞきこむようにして話しかけてみる。
悪魔は時折り、人間との火遊び程度の恋愛を楽しんでいた。
一夜を共にして終わるときもあり、短期間だけ付き合ったり
あっさりと振られることもあった。
それなら次の相手を探すだけで、いつも軽いノリだった。
いきなり話しかけられた美人は、長いまつ毛をバサバサと
はためかせて、大きな瞬きを繰り返した。
そして瞳から雨粒のような涙をあふれさせてきた。
悪魔でさえ、おもわずたじろいだ。
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