通り過ぎない通り雨

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「食べれてません」   美人は、いきなり抱え上げられ、驚きながらも素直に返答した。 そして冷静に言うべきことがあった。 「あの......僕、男ですけど?」 「あぁ、男ね、そうそう男......うん、え、えっ? えーっ!男?」 信じ難いまま美人へと顔を近づけ、男性であること確認してみる。 涙は止まっていたが、まだ瞳を潤ませている顔は美しかった。 「いや、男でもいいわ、うん」 そこはもう余裕で突っ切ってしまった。 「あの、なんで僕は抱えられているんでしょうか?」 いまさらながらに美人の彼は疑問をぶつけてみた。 「おまえを助けてやるよ。おまえの家族は、いま家にいるか?」 「いません」 「なら都合がいい、おい、自分の家の玄関を思い浮かべろ」 「は?」 「いいからやれ、自宅の玄関って声に出すだけでもいい」 「えっと、自宅の玄関」 一瞬、視界がぐらりと揺れた。
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