通り過ぎない通り雨

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めまいがした次の瞬間には......。 悪魔と彼は、彼の自宅の玄関の中に居た。 玄関内で悪魔が彼を降ろして立たせた。 「なんで?なんで?なんでですか?なんで?」 突然の突拍子もない出来事が飲み込めず、彼がふらついたので 悪魔は彼の両肩を支えながら返答した。 「なんでって、瞬間移動だよ。アニメや漫画でよくやってるだろ」 「それをどうして、やれちゃうんですか? もしくは、これは......夢?」 「ほんとに夢だったら、布団が無事でなによりだろうなあ」 「はわあぁぁぁっ......!」 「とにかく邪魔させてもらうぞ、おい、干した布団はどこだ」 「一階の、僕の部屋に面してる庭です」 「案内しろ」 悪魔がブーツを乱暴に脱ぎ捨てて室内へと上がった。 美人の彼は自身の脱いだスニーカーと一緒に、それを拾って キチンと揃え直すような礼儀正しさを持ち得ていた。 彼の住まいは広くも狭くもなく、豪華でもなく貧しい感じもない 中流家庭という印象だ。 玄関を開けて短い廊下を歩くと台所があって、一階にある部屋の 一つが彼の自室となっていた。 洋室で広めのその部屋は、およそ十代らしき男子とは思えぬ程に 殺風で、本棚と小さな丸いちゃぶ台と座椅子しか置かれていない。 木製のベッドは縦長の窓に面して設置されて、敷布団は無かった。 その敷布団は、物干し竿に広げられて雨の攻撃を受けている。 悪魔は部屋にはいるとベッドの上に乗り、窓を開け、庭へと出て そして敷布団を引っ張り、勢いよく部屋へと投げ込んだ。 ベシャーン!という音を立てて、敷布団の含んだ水気が床へと 跳ねて飛び散った。 美人の彼は「ひゃっ!」と、悲鳴をあげた。 なんだこのかわいい生き物は、ほんとうに男か? しかも見た目の中性さだけでなく、声が穏やかで透明感がある。 服をぜんぶ脱がせて確かめなければ判別できない。 悪魔は本気で思ってしまった。
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