通り過ぎない通り雨

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「夕飯。煮物にしようと思ってたのに」 そんなことで悩む姿まで絵になると、悪魔はみとれていた。 「野菜があるなら、カレーとか作ればいいんじゃねえか?」  悪魔の提案に、彼はパシッと両手を軽く叩いた。 「そっか、カレーのルーがある。それでいけます!」 と、彼はおもむろに起き上がった。 「おいおい、まだ寝とけよ」 「大丈夫です。悪魔さんて、悪魔なのに優しいんですね」 「そんなわけねーだろ、俺は惚れたら尽くすタイプってだけだ」 「は......?さっき会ったばかりなのに、ですか?」 「顔が綺麗なうえに、いちいち可愛い。 もっとおまえのことが知りたい」 彼は自分の顔に手を当てた。 「こんなもの、ついてるだけでなんの役にも立たないです」 「すげえな、余裕の発言だな、おまえ」 「違いますよ......僕は中身がダメなんです」 「働いてる親のために家のことをやる、性格が悪いとは思えない」 「そうじゃなくて、身体の中身自体が......って、ことです」 「それはまあ、みるからにわかる」 「入退院を繰り返して、小学校と中学からして半分くらいしか 行けてなくて。もう高校進学は諦めました。 だから、せめて家事くらいは、やりたいんです」 悪魔が想像していた以上だった。
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