雨を嫌う俺

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 連れて行かれたのは大衆居酒屋だった。最近オープンしたらしく、看板に取り付けられたライトでまだ新しい手羽先のイラストがぬら光る。喧噪の真っ只中、会話もままならないほどの騒音は、苦手だ。 「とりあえず、生2つな」  奥の席に腰掛けた叩木さんが、手慣れた手つきでメニューを開きながら勝手にオーダーしたので私は慌てて断った。「飲みません」 「遠慮すんなって。一杯くらいいいだろ?」 「いえ本当に飲まないんです」 「わーったわーった。な? わーったから」  ボスン、ボスンと肩を2回叩かれる。なにがわかったのだろうか。私は飲まないのに。そんなことより仕事の話が気になる。私の意に反し、すぐに生ビールが2つ運ばれてくる。ウシッと手を擦りあわせ、叩木さんがジョッキを持ち上げた。 「乾杯! 今日も1日お疲れさーん!」 「……お疲れ様です」  仕方なくジョッキを軽くぶつけ、一口飲んですぐに脇へ置いた。叩木さんは美味そうに喉を鳴らして飲み干した。「か~~~~!」とどこでも見る反応で唇についた泡を手の甲で拭う。「やっぱ仕事終わりのビールは最高だよな」と、ニカッと歯を見せた。 「まだ終わってませんよ。仕事の話とはなんなんですか」 「あー、いやな。違うんだって」  次々と料理が運ばれてくる。私は左右に視線を走らせてそれらに目を通したが、興味はわかなかった。店員のお姉さんにいちいちウスッとか、ァアイドウモ! と言ってから、叩木さんはようやく本題に入った。 「……1回さ、お前ときちんとサシで話しとこうと思ったんだよ」 「なぜですか?」 「んー、俺らはこういう仕事だろ? 事務みてえにさ、根詰めて覚えるまで徹底的にやってる時間なんてねえんだ。ある程度はぶっつけ本番、身体で覚えてかなきゃならないとこもあると思う。お前よくやってくれてるけど、なんか、きちんと話聞いてやったことなかったなって……思ってさ」 「はあ……」  とはいえ、現状なにもトラブルがなければ、大丈夫なのではないだろうか。わざわざ呼び出されたということは、やはりまだ信用できないなにかが私にあるのではないだろうか。ではいまからサシで説教が始まるのだ。憂鬱な気分で私は視線を落とした。膝の上で玲さんのキラキラした世界が広がっている。 (わあ、お洒落なバー)  見たこともないカクテル。まるで小さな海みたい。この淡い水色の中に潜りたい。それらをさりげなく自分のアイテムにする玲さんは素敵だ。
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