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旦那が亡くなって正確には3ヶ月も経っているらしい。
寂しいけれど、当たり前のように日常は続いていく。
今度は1人でのんびり暮らそう。そう思っていたはずなのに。
「優子」
なぜか笑う旦那の顔を思い出してしまう。
しょっちゅう腹を立てて怒鳴ることも多かったのに不思議なものだ。
思い出すのはあの人の優しい顔ばかり。
「お母さん……」
水を止めた結芽に手を引かれて再びソファーに座った。
ハンカチを渡されて泣いていたことに気づいた私は慌ててそれで顔を隠す。
「ごめんね」
呟くと結芽は何も言わずにただ背中を優しくさすってくれた。
その手のぬくもりにまた涙が滲む。
私の異変に気づいて隣のアパートに住む結芽たち家族が朝、一緒に過ごすようにしてくれた。
そのお陰で、今日も記憶の混乱から戻って来られた。
「お父さん、優しかったもんね」
結芽に手を握られながらあの人を思い出してまたひとしきり涙を流す。
「今度の休みお出かけしよっか?お母さんとお父さんの思い出の場所とかさ」
「私たちはいつもドライブばかりだったからどこって思い出はないわよ」
「じゃあ、結婚記念日、いつも2人でどこに行ってたの?」
涙を拭って笑うと、結芽はニヤリとした。
「……あのお店に行くの?」
雑然としたあの居酒屋を思い出すと笑えてくる。
酔っ払ってお金をばら撒いてしまった私のお金を丁寧に拾って支払いをしてくれたあなた。
酔いが覚めるまでずっと側に居てくれたあなた。
迷惑をかけたお礼として食事に誘ったのにまた支払いをしてくれて微笑んでいたあなた。
そうね。いつもあの人は笑っていて本当に優しかった。
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