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 グラウンドに敷き詰められた春色の花びらに足を置く。  窓の向こう側から見ているだけではわからなかった感触を足裏に感じながら、ほとんど散ってしまった桜の木に歩み寄る。  辺りには誰もいない。みんな散り終えた桜に興味はないのだろう。  だからそこには彼だけが立っていた。葉桜の下でどこを見るか定まっていないように視線を彷徨わせている。  その瞳が、私に気付いた。 「よお」 「来てくれてありがとう」 「なんかまたおでこ赤くない?」 「気のせいだよ」    春の風が味方をするように私の前髪を揺らして額を隠した。  背を向けた校舎から視線を感じる。彼女が見てるんだろうか。ストローを咥えて腹立つ顔で窓ガラスを覗き込んでるかもしれない。まあいい。本当に情け容赦の一切なかったデコピンのお礼だ。  存分に楽しんでよ、私の一世一代の現代アート。 「柳田くん」    私は、私の好きな人の名前を呼んだ。  柳田くんは私の額に向けた視線を下げる。  目が合った。   「話があるの」    春を過ぎた桜の木の下で、彼は真っ直ぐにこちらを向いている。  彼の瞳に映るのはオリジナルの私。  誰の正解かわからない、ただの私。  こわい。でも、見てほしかった。  それでもしも彼がこの私を好きだと言ってくれたなら、今度こそ高らかに宣言してやるんだ。  ――今日から私はあなたの彼女(正解)です、って。 (了)
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