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「またフラれた……」 「そりゃフラれるよ」  ストローから口を離した舞子(まいこ)はやれやれと首を振りながらため息をついた。これが交際直後の破局を迎えて絶賛傷心中の親友に対する態度だろうか。 「なんでそんな風に言い切れるのよ」 「だってなんかこわいもん、杏菜(あんな)」 「付き合った人の理想の彼女になろうとしただけなのに?」 「まあその心がけは良いんだけど、心がけだけで良かったかな」  舞子はそう言って再びストローを咥えた。バナナミルクのパックが少し凹んで、元に戻る。  それから口を離して「ふぁ」とジュースを飲んだからなのか、またため息をついたのかよくわからない声を出した。 「にしても杏菜って人に合わせるのはうまいのに、彼氏に合わせるのはなんでそんなに下手なんだろうね」 「なんか難しいんだよねえ。今回だって彼が私のことたくさん知りたいって言うから教えようとしただけなのに」 「もっとゆっくり知っていきたかったんじゃない?」 「そういう詳細な要望はあらかじめ正確に伝えてもらわないと!」 「なにこのビジネス感」  べ、と舞子は苦いものを吐き出すように舌を出した。大人にはなりたいけど社会人にはなりたくない、が彼女の口癖だ。その気持ちはわからなくもなかった。  窓の外に広がる青空とグラウンドを眺める。よく晴れた昼休憩の校庭ではたくさんの生徒がサッカーをしたり草むらに寝転んだりしていた。  ふとグラウンドの端に目をやると、二人の男女が満開の桜を見上げているのが見える。カップルだろうか。お花見でもしているのかもしれない。 「付き合うってなんなんだろうね」  視線を戻して、机の上の抹茶オレを見つめた。先ほど自販機で買ったものだ。  味は美味しいけど、最近はフラれるたびにこれを飲んでいるのでなんだか嫌な思い出になりそうだった。 「……杏菜さあ、もっと我儘になっていいんじゃない?」 「どゆこと?」  机を挟んだ先で肩肘をつく親友を見る。舞子も私を見ていた。 「もっと自分を出すっていうかさあ。じゃあもしもの話だけど、ありのままの君がいい、って言われたらどうするの?」 「ありのままってなに?」 「え、うーん……」  腕を組んで考え込む彼女。それをよそに、私はストローを咥える。  そろそろ憶えてきた味を吸い込みながら、先程のお花見カップルを思い浮かべた。仲睦まじく桜を見上げる二人。  あの二人は、本当にありのままなんだろうか。 「難しいなあ」  予鈴が鳴る。  サッカーをしていた生徒たちが慌てて校舎に戻ってくるのが見えた。
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