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私の中にはいくつかのカスタムタイプがある。それらは状況に応じて使い分けられ、大きく分類するなら場所によって変わる。
家モードの私、学校モードの私、お出かけモードの私。
それぞれの場所によって、性格も喋り方も話す内容も違う私が現れる。そんな仕様になっていた。
「ロボットみたいだね」
そんな風に舞子は言うけれど、きっとほとんどの人がそうしているに違いないと私は思っていた。舞子だって私の前ではこんな感じだけど、愛犬のチャコの前ではデレデレで赤ちゃん言葉になったりする。そういうことだ。
「あんた今あたしの恥部を晒したでしょ」
「舞子ってもしかして心読めるの?」
「親友なめんな」
デコピンされた。超痛い。
私の前の席で授業を受けているはずなのにどうしてわかったんだろう。そして先生の目をかいくぐる計算され尽くしたデコピン。我が親友ながらおそろしい。
「また何か悪いこと思ったよね?」
「今日も舞子の髪綺麗だなって思っただけだよ」
「ならよし」
危なかった。我が親友がちょろくて良かった。二回もあんな威力のデコピン受けたら死んじゃうかもしれない。
「――ぷっ」
唐突に後ろから破裂音が聞こえた。
先生に見つからないようにこっそり振り返ると、後ろの席で柳田くんが必死に笑いを堪えていた。
「すげえ威力だったな」
「見てたの⁉︎」
「見えなかったけど聞こえた」
柳田くんはボリュームの落とした声でまた笑った。舞子のデコピンの衝撃音が彼にまで聞こえていたらしい。どんな威力よ。
「あ」
「ん?」
つん、と彼の人差し指が私の額に触れる。ひやりとした指先にどきりとした。
「赤くなってる」
「え、うそ!」
思ったより大きい声が出てしまった。先生がこちらを向いて「おい、授業に集中しろよー」と注意を受けたので私は慌てて姿勢を前に戻す。何やってんのよ、と言うように舞子が横目でこちらを見た。
「ごめんって」
小声で謝りながら、私は自分の額に手を遣る。彼の触れた箇所が熱い。
……これは、恥ずかしかっただけだよ。
収まる気配のない胸の高鳴りにそんな言い訳をした。
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