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「おはよう」
「うわ、出た」
「化け物みたいに言うなよ」
登校してきたばかりの柳田くんは顔をしかめて席に座った。私の後ろの席。振り返れば、そこに彼はいる。
そう考えただけでもう駄目だった。
もちろん彼が私の後ろの席に座るのは今日に始まったことじゃない。
それなのに私の鼓動はどんどん速くなり、うまく息ができなくなる。ただ後ろに座っているだけでそうなのだから、今度また触れられでもしたら大変なことになるだろう。
私をこんな状態にしてしまうなんて、彼は本当に化け物なのかもしれない。今も私の背中に何か呪いのようなものでもかけてるんじゃないだろうか。振り返れないから確認もできないけど。
私はあの日から彼の顔がまともに見られていなかった。プリントを渡すときですら俯いてしまい「つむじからプリントを受け取る日が来るとは」と図らずも彼の人生の初めてを貰ってしまったほどだ。
見たらいけない、と今も全身が警鐘を鳴らしている。そこが生命線だと本能が告げている。
「見たらいけない。見たら終わり」
「化け物みたいに言うなよ」
背後から不満げな声が聞こえた。それが私に向かっての言葉だと知った途端、耳が熱くなる。
私は真っ赤になっているであろう両耳を隠すように手で覆った。少しだけ落ち着く。「聞くのもダメなのか」とかすかに聞こえた。
どうしよう。
このままじゃ、私が私でいられなくなりそうだ。
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