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「杏菜はさ、そもそもなんで彼氏に合わせようとするの?」
「え、だって付き合うってそういうことでしょ?」
「どういうことよ」
「精神的融合とその証明」
「現代アートみたいだな」
ドン引きしている舞子に「冗談だって」と言うと、彼女は「冗談に聞こえないのよ」とストローを咥えた。今日の彼女の昼休みドリンクはイチゴミルクだ。
「まあ融合は言い過ぎだけど、ある程度相手に合わせるのは必要でしょ? 合わないと続かないし」
「合わせすぎて始まりもしなかったけど」
「泣くよ?」
私は紅茶オレを吸い込みながら目尻を拭う仕草をする。舞子は「泣きながら水分補給するの効率いいね」と笑った。
窓の外を見れば桜が花びらを撒いていた。根元は薄っすらと白く色づいていて、その花びらを踏まないようにと歩く女子生徒が見える。
「杏菜って自分から人を好きになったことある?」
「え」
唐突な彼女の問いかけに、私は言葉に詰まる。
それだけで舞子はすべてを察したようで「あーやっぱり」と納得したように頷いた。
「やっぱりって」
「だって杏菜さ、いっつもフラれたって嘆いてるくせに相手のこと『好きな人』とか『彼氏』とかじゃなくて『付き合った人』って言ってるし」
「……そういえば」
「ビジネス感がすごいのよ。ま、だから知らないんだろうなあって」
「なにをよ」
ストローを吸いながら尋ねると舞子は目尻を下げた。彼女にしてはめずらしく中途半端な表情を浮かべる。
「好きな人が変わっちゃうのって結構ショックだよ」
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