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ずぞ、と不細工な音が響く。
気付けば手元の紅茶オレは空っぽになっていた。
「……ねえ舞子」
「ん?」
「好きになるってなに?」
「え、うーん……」
腕を組んで考え込む彼女。それをよそに、私はストローを咥えようとしたとき答えが返ってきた。
「ヤバい、ってなる」
「まったくわからん」
あまりに抽象的すぎる答えに私がストローにつけようとした口を開いて抗議すると「えー」と舞子は口を尖らせた。文句を言いたいのはこっちだ。
「だからさあ、こう、きゅんきゅんしてドキドキして熱くなって、ひゃーってなって……要するにその人のことが頭から離れなくなってヤバいーってなるわけよ」
「どきどき?」
「そうそう。杏菜はそういう瞬間ないの?」
そういう瞬間。
思い当たる節がひとつだけあった。え、待って。いやあれはそういうんじゃ。
「…………」
「ほほう?」
いつの間にか考え込んでいた私を覗きこむように舞子が視界に入ってくる。なんだかすごく腹立つ顔をしていた。
「春ですなあ」
「うるさいな」
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