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「ロイ、どこにいるんだよ」
ユタが不安そうに呟いた。
私とユタは、ソムと話した後、ロイを探しに小学校を飛び出した。だけど、そう簡単にロイが見つかるわけもなく、私たちは町をひたすらに歩き回っていた。でも、諦めるわけにはいかない。私は、何としてでも昔のロイを取り戻したかった。
——絶対に、見つける。
私は、強く心を決めた。
ロイは変わってしまった。
昔のロイは、どちらかと言うと大人しくて、不器用だったけれど、決して卑屈になったりはしなかった。のんびりとしていて、周りを和ませるロイが好きだった。
それなのに、今のロイを見ていると、もどかしいような、腹立たしいような、そんな気持ちになる。
ロイは、自分が『核』を食べたことで、その『核』の持ち主が幸せを感じられなくなってしまったことをずっと気にしている。その『核』を食べられた人は、幸せを感じられなくなった影響なのか、同級生をいじめて自殺に追いやってしまったらしい。
確かに、自分が『核』を食べたことでそうなったら、ショックは受けるかもしれない。でも、それはロイが責任を感じるべきことではないと思う。人間の幸せを食べないと存在していられないのが私たちなのだから。他人を傷つけないために自分が傷つく。そんなの、間違っている。自己犠牲は美しいようで美しくない。ロイはもっと、自分を認めるべきだ。自分なんか、と思ってはいけない。
それに、私もユタも幸食鬼だ。ロイが幸食鬼の生き方を否定すればするほど、私たちも否定されているように感じてしまう。
ロイに悪気がないこともわかっている。それなのに、そんな風に思ってしまう自分が嫌になる。
そんな私に比べて、ユタは優しい。ロイにこっそりと『核』を食べさせるなんて、私には出来ない。ただの自己満足だとユタは言っている。正直、私もそう思う。それでも、ただロイのことを思って行動出来るユタはすごい。
私が、ユタが料理に『核』を混ぜて、それをロイに食べさせているのを知ったのは、結構最近のことだ。
ユタとロイが屋上で卵焼きを食べていたから、私も一切れ貰って食べた。その卵焼きは、ジャリっとした感触の何かが入っていた。「卵の殻が入っちゃったんだ」とユタは言っていたけれど、そのジャリっとしたものは『核』の味がした。その後こっそりユタに確認したら、ロイに食べさせるために『核』を入れたのだということがわかった。
「やっぱりミサにはわかっちゃうか」
ユタはそう言って、ちょっと困ったような顔をした。
「このことは、ロイには……」
「言わないよ」
そう言うと、ユタはほっとしたようだった。
この時に私は、ユタのロイに対する思いがどれだけのものか、はっきりわかった。だからこそ、ソムがやって来たあの日、人間になる方法があると聞いたロイの目が輝いたのを見て、怒りを覚えてしまったのだ。
——どうして、そんなに幸食鬼の生き方を嫌うの。
その想いがじわりと広がっていった。ユタがどんなにロイを気にかけているか。ロイは悩むばかりで、全く周りが見えていない。ユタだって、自分がやっていることが本当にロイのためになっているのかと悩んでいる。どうして、ロイはそれをわかってくれないのだろう。そう思う度に、ロイとの距離が広がっていくようで、言いようのない気持ちになった。
そんな風に燻っている想いを、きちんとロイにぶつけたい。本音を隠していたら、伝わるものも伝わらない気がする。
伝えたいのだ。
ロイはありのままでいれば良い。私たちも付いているから、と。
私たちはずっと一緒だ。
——一緒じゃないといけないのだ。
「絶対に見つけよう」
私は、ユタにそう言った。
「そうだな」
ユタも、声に決意を込めて言った。
気が付けば、空は深い赤に染まっていた。町は、昼間の空気を徐々に夜のものへと変化させている。そんな空気と夕方の琥珀色の光に包まれている町は、何だか、とろりと気怠かった。その気怠さの中に、嫌な気配を感じた。
「嫌な感じがする」
私がそう言うと、「俺も感じる」とユタが言った。私は、その気配がどこからやって来ているものなのか知るために、感覚を研ぎ澄ませた。
——こっちだ。
私の勘は、目の前にある坂の上だと告げている。この坂を上った先に、何かがあるのだ。私は坂を上ってみることにした。その気配の正体を確かめたかったのだ。ユタも後を付いてきた。坂を上れば上るほど、嫌な気配は強くなっていく。
「……神社」
嫌な気配の正体は、それだった。神社から発せられる気配は、ぞわぞわと背筋を撫でてくる。私は、少し後ずさりした。
「待って! 」
その声と共に、神社の石段を駆け下りてくる人影のようなものが見えた。その人影のようなものは二つあった。その片方を見て、私は言った。
「ロイ……! 」
ロイは驚いた表情をして足を止めた。
「ミサ、ユタ、なんで……? 」
ロイは私たちが来たことに戸惑っているようだ。ロイの傍らにいる少女が「この二人も幸食鬼なの? 」とロイに問いかけた。私は少女の『核』を見てみた。その色が水色なのを見て、ソムの勘は正しかったのだと悟った。
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