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 今日から俺は、一般庶民だ。もう、殺しはやらない。  うらぶれた路地を歩きながら、アカマは何度も自分に言い聞かせた。  数時間前、トムに最終連絡もした。  もう俺には依頼しないでくれ、と……。   アカマは暗殺を生業としていたが、悪党しか殺さない主義だった。同様の者も何人かいて、トムはその元締め的な存在になっている。  裏の世界で信頼される情報屋。さらに、独自のネットワークで暗殺者数名とつながり、依頼を受けて仕事の調整をする役割も担う。依頼者の身元調査や暗殺対象者がそれに(あたい)する悪党なのか確認を行い、適任だと思える者に実行を依頼する。不思議な人物で、誰もその顔を見たことはない。年齢はおろか、国籍や性別さえも不明だ。  そんなトムとも、もう関わり合うことはないだろう。俺はこれから、普通の人なのだ。  しかし、アカマの足取りは重く、表情もふさぎがちだ。  これまで、まともな仕事はしたことがない。暗殺しか能がないのだ。表向きの仕事はネットを中心に活動するフリーライターとしていたが、実質それで稼いだ金などコーヒー代程度にしかなっていない。  立派な一般庶民になるために、社会勉強としてバイトも始めた。  だが、先ほど勤務先のコンビニで、態度の悪い客に対して思わず殺意を感じた。  たぶんヤクザ者だ。ああいう奴は、後ろから首に手をまわし一気に頸椎をバキッと……。  いかん、いかん、俺はもう、そういうことはやらんのだ。  不謹慎な想像を、首を振って頭から追い出す。
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