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「いやあ、佐藤さんが戻ってきてくれて、本当に良かったですよ」
わたしは、部下とお昼ごはんを食べていた。今日はタマゴサンドではなく、カツ丼だ。ちなみに、服もスーツなので、恥ずかしくない。
「佐藤さんがいなくなってから、本当に大変だったんですよ。最大のネックは佐藤さんの代わりに配属された人ですね。正直、最悪でした。高圧的なのに、全く仕事ができないんですから」
わたしは苦笑した。わたしの代わりに配属された人物は、上司には気に入られているが、部下には嫌われまくっている人物として有名だった。
「真面目な話、先輩が戻って来なかったら、自分は会社を辞めてましたね」
「そこまで?」
「そこまでですよ! 先輩が戻ってきて、その人のことをこてんぱんにしてくれたから良かったものの、先輩がいなかったら、もう、間違いなく辞めてましたね」
たしかに、その人の行動はかなり目に余る部分があった。なので、仕事をやり直せ! などと高圧的な態度で出てきた際に、じゃあ、手本見せてください。このタイミングでのやり直しは、あなたにしかできませんから。ニコリ。と反撃に出た。
わたしはそのまま退勤。そのプロジェクトが失敗しかける程の大炎上。その人は会社から大目玉を食らった。
わたしに責任をなすりつけようとしてきたが、わたしはその人のフォローアップを的確にこなしたことで、責任の所在はわたしにないことを証明。その人はプロジェクトを失敗しかけた責任と、その責任を他人に押し付けようとしたことで、二重に評価を、大幅に落とした。
おそらく、次の人事異動では降格は免れないだろう。
ちなみに、わたしは部署全体から拍手喝采を受けたりした。
「それにしても、面接で佐藤さんが現れた時にはびっくりしましたよ。即採用してください、って人事に直談判しましたよ」
「そんなことしてくれてたんだ」
「自分だけじゃないですよ。噂を聞きつけた人の多くが、人事にお願いに現れたみたいですよ。これは人事の同期から聞いたので間違いありません」
「どうもありがとう」
わたしはマスターとの会話の後、しばらくの間、心を整理する期間を作った。
料理をしたり、おいしいものを食べてみたり、旅に出たり、ちょっとギャンブルにも手を出してみたり。
仕事以外に、自分に合った何かがあるかもしれないと思ったからだ。
でも、わたしはどうやら仕事が性に合っているらしい。仕事といっても、辞めてしまった仕事だ。何でもいいわけじゃない。
だから、わたしは再度、辞めた会社の面接を受けた。
一回の面接で入社が決まったので、なんかおかしいなとは思っていた。まさか、社内でそんなことをしていたとは思わなかったけど。
かくてわたしは同じ会社に就職することができた。もっとも、以前のように仕事に没頭せず、適度に休みを取りながら。そうしないと、視野狭窄に陥り、仕事だけに気持ちが向かって行ってしまうから。
今でもマスターのところには月に一度は通っている。多い時では週三の時もある。
そこでマスターと他愛のない話をするのが、今のわたしの一番の楽しみだ。
そうだ。今日は帰りにタマゴサンドを食べに行こう。
お昼ご飯のカツ丼を食べながら、マスターのタマゴサンドに想いを馳せた。
~fin~
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