誰も居ない朝

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誰も居ない朝

 「はぁ、はぁ、はぁ……」  グラウンドの走り込みをする彼は、一定のリズムを保つように呼吸を繰り返す。早過ぎず、且つ、ゆっくり過ぎず、自分のリズムが乱れないように走り続けていた。  彼は短距離が得意なのだが、長距離を走っているのには理由があった。走り込みは体力アップの基礎トレーニングにも使われ、自己身体能力向上に繋がりやすい。  そう何かの情報サイトを見たのだろう彼は、太陽が昇り切る前の午前中、朝練として毎日決まった時間に現れる。  「ふぅ……今日はこのぐらいか」  トラックを周回し、ある程度の満足度と疲労感に納得した彼は足を止めた。照り付ける前とはいえ、今はもう夏の真っ只中。  午前中だというにもかかわらず、誰もいない時間帯でもかなり暑い。そんな蒸し暑さを嫌々と感じつつ、汗に濡れた髪と頭全体を冷やしに水飲み場まで足を運ぶ。    「……んくんく……はぁ、生き返る」  渇き切っている喉を潤し、後頭部から頭を冷やすように水を浴びるとそんな言葉が漏れた。  やがて頭を濡らした彼は、頭を振って水滴を飛ばす。この猛暑であれば、すぐに乾くと思ったのだろう。  タオルを持ってくるのを忘れてしまった。    「やらかしたな……ん?」  そんな呟きをした途端、頭に柔らかいものが乗っかる。それの重さと手触りで、すぐにタオルだと彼は理解が出来た。  だが、彼よりも前に言葉が投げられた。  「お疲れ様です、センパイ」  濡れた顔を拭いて目を開けると、そこには茶髪の女子生徒が向かい側から顔を覗き込ませていた。     「お前か、誰かと思った」  「タオルを忘れてるので、お届け物です。それともう一つ……んっ」    彼女は覗き込んだ体勢から、更に身を乗り出して顔を近付けた。顔を上げ、見上げる形となっている彼の額に唇を押し付けた。  すぐに離れた彼女は、ニカっと笑みを浮かべて頬杖をして問うのである。  「疲れ、取れました?」
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