プロローグ

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プロローグ

 そこはどこまでも続く黄土色で荒涼とした大地を見渡せる高台の上だった。  白いペランに黒いトゥンバンを履いて頭にターパンを巻いた少年がその高台の上に立っている。乾いた砂混じりの強風が彼の顔に激しく打ち付け、彼の両頬は薄赤く染まって来ているが、その風に負けることなく彼は真っ直ぐ風上を見つめていた。  ここは中央アジアの小国アシュワニ・イスラム共和国。国土の大半が乾燥した砂漠に覆われ、寒暖の差が激しいこの国では、中世からその国民は非常に貧しい生活を強いられていた。二十世紀の初めに地下に眠る石油資源が発見された事により国は大きく潤ったが、それが貧富の差を拡大させ、石油の利権を巡って大国による戦禍に何度も見舞われる事になる。  二十一世紀になり、石油の利権に伴う争いは影を潜めたが、この国を根城とするテロ組織『カルカイダ』と親米政権との内戦がもう十年は続いていた。  少年が見下ろす遥か先にはこの場所に似つかわない近代的な施設が在った。それは米軍のパクラム空軍基地。十年前、カルカイダと戦う親米政権を支援する為、この基地は米軍により建設された。しかし一カ月前に米軍はこの国からの撤退を発表していて、この基地からも本国に戻る多くの航空機が飛び立って行った。そして今日、最後の輸送機がこの基地を離れていく。 「わぁ、飛んだぞ!」  灰色の輸送機が空軍基地の滑走路を離陸して高度を上げている。そして轟音を響かせ少年の頭上を通り過ぎていった。少年はその光景に目を輝かせていた。  この十五歳の少年、マヒドラ・シャーラは小さい頃から機械やモノ造りが大好きで、数学や理科の成績もトップクラスだった。しかし貧しい彼の家庭では就学の費用を捻出する事が出来ず、彼は高校へ進学する事を断念し、現在は父の宅配の仕事の手伝いをしていた。  毎日、仕事に明け暮れる彼の唯一の楽しみが、この高台から見る飛行場の風景だった。あんな複雑な機械が空を飛ぶ。彼には想像すら出来ない物凄い技術が飛行機を空に浮かべて、遠くの国まで飛行する力を与えている。自分もそんな技術にいつか触れてみたいと彼は毎日考えていた。
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