世界中の誰よりも大事な貴女へ

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通いなれた居酒屋の暖簾をくぐる。 「いらっしゃいませー! もういらしてますよ」 「ありがとう」 すっかり顔なじみになってしまった店員が指し示した方に視線を向けると、4人掛けの席に一人で座る女性がこちらに向かって手を振っていた。俺はその彼女に手を振り返しつつ店員に礼を告げると、そちらの方へ歩み寄っていく。 「悪い、ちと会社出るのが遅れた。もう飲んでたか?」 彼女の対面の席に腰を降ろしながらそう聞くと、彼女はビール瓶を手に取りながら答える。 「待ってて上げたわよ、ありがたく思いなさい。ほらジョッキ持って」 言葉に従い持ち上げたジョッキに彼女はなみなみとビールを注ぐと彼女は瓶を置き、自分のジョッキを持ち上げた。 「それじゃ、カンパーイ」 「乾杯」 キィンとジョッキを軽く打合せ、お互い白い泡へと口を付けて喉を潤わせる。俺も彼女も大酒飲みというわけではないので一気にあおるようなことはしない。ジョッキの4分の1くらい中身がなくなったところで、お互いにジョッキから手を離す。 「20周年おめでとうってところかしらね、今回は」 「20周年?」 「アタシとユーキが出会ってからよ」 よくぱっと出てくるなそんなの。 彼女の名前はミライ。残念ながら恋人という甘い関係というわけではく、長い付き合いの幼馴染というだけだ。初めてあったのは6歳の時で、それから彼女の言った通り20年もの長い付き合いとなる。小学校中学校はおろか、示し合わせたわけでもないのに高校や大学まで一緒だった腐れ縁もいい所の相手だ。 ──そんな長い付き合いの中、そういった感情を抱かなかったことはない。特に高校の時などはさりげなくそういった雰囲気にもっていこうといろいろ画策したことだってある。が、その度に上手く躱されつづけ……大学に通い始めて暫くしたころには最早俺の側にもその気はなくなっていた。 そして大学を卒業。お互い就職し住むところも離れ長い腐れ縁にも終止符と思ったら、勤め先の場所が隣駅。この時はさすがに二人で爆笑しあった記憶がある。 結局社会に出ても切れなかった腐れ縁。だったら死ぬまでこうして行こうかなどと冗談交じりにいいながら始まった月1の飲み会は、4年たった今でも欠かさず続けらていた。 話す事はいつも様々だ。お互いの仕事の愚痴を言いあう事もあれば、地元の話をすることもあるし、他愛もない時事ネタを話す事もある。ただ何の話題だって話は弾む。掛け値なしに楽しいと思える時間。きっと冗談でまなく年老いるまで続くと思っていた。自動車のヘッドライトがこっちに向って突っ込んでくるまでは── ──そんな記憶を急に思い出したのは10歳の頃の事だった。 一日の疲れは湯船に入ったくらいでは癒されない。疲労のたまった体をベッドに投げ出し、私は大きくため息を吐く。 ロティーナ・フレーヴェル。それがだった。 レジナート王国、その軍隊の中核と言える魔導騎士を多数輩出し、深魔と呼ばれる強力な人類の敵を何度も葬って来た名門の貴族の家系。その本家の三女にて将来を嘱望される魔導騎士。それが今の私の立場だ。 ──前はただのサラリーマンだったのにね? 名家に産まれ、厳しくも優しい両親や兄姉の元で健やかに過ごしていたある時突如よみがえったこの世界ラザーナとは違う、地球という世界の記憶。思い出した直後は酷く混乱したが、やがてその記憶が鮮明になっていくうちに私は全てを理解した。 蘇った記憶は事実であり、これは前世。私は地球という世界にいたユーキという男性であり、居酒屋でお酒を飲んでいる時に突っ込んできたダンプカーによりこの世界に転生した。 地球で当時はやっていた異世界転生というのを、自ら体験することになったのだ。転生の仕方が思いっきりテンプレっぽいのは笑いどころだろうか。最もそれによって向こうの私は死んだのだろうから笑う所ではないのだが。明確に死ぬ所の記憶がないのは救いだった。 まぁでも、記憶の復活が早い時期でよかったと思う。 フレーヴェル家は魔導騎士を多数輩出しているとはいえ、その子供が全てそれになるわけではない。次期党首となる長子は魔導騎士を求められるが、第二子以降──それも女子であるなら、優秀な者を夫としフレーヴェル家繁栄へ貢献する……それが普通の生き方だった。実際私も記憶を取り戻していなければそうしていただろうし、今はすでに殿方を迎え入れていたかもしれない。なにせ、一つ年上で今年17になったばかりの姉にはすでに10歳ほど年上の旦那がいるのだから。 だが、その私の運命は6年前に大きく変わった。 私の性自認は女だ、生まれてきた時から女の体で生きてきたのだ、それは変わらない。だが男として生きてきた記憶がある事も事実だ、そしてその記憶が明瞭になったとき私は女として用意されているであろうそれからの人生を生きていく事に耐えられなくなった。 いずれ男に嫁ぎ、その身を委ね、子を成していく? 無理だ。 明瞭な記憶は意識に、人格に影響する。体は女、意識は女である自分と男である自分が混在するというちぐはぐな私には、その未来は受け入れられなかった。むしろその辺りの感覚がこじれて多少男性が苦手になってしまったくらいだ。特にこっちをで見てくるような輩には嫌悪感を抱くこともある。 だが私は貴族の娘。そのまま何もない娘として生きていたのなら、優れた夫を迎え入れることが求められる。 だから私は魔導騎士になった。 フレーヴェル家は魔導騎士の名門、魔導騎士となり優秀さを示せばただ男に従う女であることを求められることはなくなる。 それまで剣を握ったことすらなかった私は、それから死にもの狂いで修練を始めた。 両親や一番上の姉は突然魔導騎士を目指し始めた私の姿に戸惑ったようだが、それを留めてくるような事はしなかった。男児のいない当代で長女の他に優秀な魔導騎士が現れる事は悪い事ではないからだ。それに私には4人の姉妹がいるのも影響しただろう。 そして幸いな事に、私にはそれなりの才能があったらしい。天才と言われ12歳で騎士叙任をした姉程ではないものの、齢14にて叙任を得る事が出来た。 とはいえそこがゴールではない。騎士になってもろくに成果を残せなければ退役させられ、夫を迎え入れることを求められるだろう。もしかしたら私に色目を送ってくる隊長の一人がその相手になるかもしれない。そう考えると私は自らを鍛える事を止めることはできなかった。騎士になって2年たった今でも私は厳しい訓練に身を置いている。おかげで毎日夜には体はクタクタだ。 ただ私がそうしているのはそれだけではない。もう一つの理由があった。 魔導騎士の役目として、深魔の討伐というものがある。深魔の勢力圏と隣接している王国はその広大な領土の各地で深魔の害を受けている。だが深魔には魔導を内包しない攻撃は通用せず、一般の民ではなすすべがない。そのため魔導による戦闘技術を極めた魔導騎士がその地へ赴き、討伐する。国家同士の大規模な戦争がおきていない近年では最重要の役目といえるものだった。 だが私はまだその役目に着いたことは無い。私の騎士としての階級はまだ見習いに近いものであり、実戦に出してもらえるものではないからだ。その役目に着くためには試験を通過し、階級を上げる必要がった。 そうすれば深魔の討伐に出れる。 別に、私自身には深魔に深い恨みがあるわけではない。私が役目につきたいのは深魔をこの手で撃ち滅ぼしたいというものではなく、討伐のために王国の各地へ赴くという部分だった。 ──よみがえった記憶の中、その情景の殆どに姿を見せる女性がいる。 20年もの時を一緒に過ごし、ときには恋に似た感情を抱いたこともある幼馴染。 ミライを探し出したかった。 私と同じようにこちらの世界に来ているのではないか。いつからかそう思い始めるようになった。ありえない話かもしれないが、そもそも今の私の状態がありえない状態だ。ないとは言い切れない。 あの時彼女は死んでいないかもしれない。 こちらの世界にはきていないかもしれない。 来ていたとしても、前世の記憶はないかもしれない。 記憶を取り戻していたとしても、この広大な世界のどこにいるかもわからない。 探したところで見つかるわけがない、そんな事は何度も考えた。それでも、探しだして会いたい。 それは昔抱いた淡い恋のようなものよりよほど強い、恋に近い感覚かもしれない。 どう探せばいいかもわからないが、いてもたってもいられない気持ちが、毎日の辛い訓練を乗り越えさせる。 ──次の試験は3か月後。それを突破すれば17になるころには任務を与えられることが出来るだろう。 そろそろ彼女を探すための方法をきちんと整理しないとね…… そんな事を考えながらも落ちてくる瞼には抗えず、柔らかい布団に疲れきったその身を委ね、私の意識は、 ───────────みぃつけた─────────── え? 声が聞こえた。 とても穏やかで静かな、それなのによく通る声。それが私以外誰もいないはずのこの部屋で聞こえたことに、私の意識は瞬く間に覚醒する。跳ねるように上半身を起こし、周囲を見回すと 「やぁ」 ベッドのすぐ横にある窓が大きくあけ放たれ、そこに一人の女性が気さくそうな笑みを浮かべて腰掛けていた。 美しい、少女だった。陶磁器のような白い滑らかな肌、月明りを受けてきらめくような黒髪、均整の取れた体。私の中の女性としての意識ですら見とれるようなその姿。そしてその藤色の瞳はこちらをじっと見据え── 藤色? 様々な姿を持つ深魔たち、だが一つだけ統一された特徴はある。それは藤色の── 「深っ……」 「おっと、大きな声は出さないでねユーキ」 声を出そうとした瞬間、彼女の姿が瞬く間に距離をつめたかと思うと口が塞がれ、彼女は言葉と共にいたずらっぽい笑みを向けてくる。 私は混乱していた。 深魔が部屋に現れた事? 違う。 まるで反応できない速度で口をふさがれた事? 違う。 名前を呼ばれた事だ。ロティーナというこの体に名付けられたものではない、誰にも話したことがないこの世界では誰も知りえぬハズの名前。それを知っている可能性があるのは、同じような記憶を持つ者だけだ。 そして、その悪戯っぽい笑みにも覚えがあった。まるで違う顔なのに、記憶の中を埋め尽くしている一つの顔がその顔に重なる。 まさか……まさか! 口を塞いでいた手が離されるのと同時、俺の口から恐る恐るある大事な言葉が流れ出る。 「もしかして……ミライなのか?」 その言葉を聞いた瞬間、彼女の顔に満面の笑みが浮かびあがった。 「良かった。ちゃんとユーキ思い出してくれてたんだね。……久しぶり、16年ぶりかな?」 次の瞬間、私は彼女を抱きしめて泣きだしていた。 「落ち着いた?」 「……うん。ごめん急に抱き着いたりして」 「気にしないで、私も抱きしめたかったもの」 まるまる10分くらいは彼女の温もりを感じたまま泣き続けて、ようやく落ち着いた俺はベッドの上で彼女と並んで座っていた。自分から縋りついた腕はもう離したが彼女の腕は俺の肩に回されおり、身を寄せ合ったままの状態だ。彼女の暖かい温もりが、自分の体の熱を包んでくれているような気がする。 「ミライもこっちに来ていたんだな」 喋り方が昔のものに戻っていた。今の姿になってから殆ど使っていない、普段の私を知っている人間には乱雑に感じるであろう言葉が、自然と口から流れ出る。 「まさか、深魔として転生してたなんて……」 「ああ、安心して。私は人間とは別に敵対してないから」 「そっ……か」 安堵のため息が漏れる。それと同時にもしかしらた記憶が戻らないまま殺しあわないといけない相手として出会う可能性もあったことを想像してしまい、体が震えてしまう。それに気づいたミライはより強く肩を抱き寄せてきた。 「大丈夫よ。ユーキを悲しませるような事はする気がないもの。それにしても随分可愛らしい姿になったわね?」 「……お前も人の事いえないだろ?」 「あら、私は前の姿も美人だったでしょ?」 「自信過剰かよ」 「あらひどい。私ががっちりキメてた時とか、ちょっと見とれてたの知ってるのよ?」 「うっ……」 そうやって悪戯っぽい顔を向けた後彼女はクスクスと笑いだし、それにつられて俺も笑いだす。 ああ、楽しい。楽しいなぁ。たったこれだけの他愛の無い会話がこれまで生きてきた中の何よりも楽しい。 それからしばらくは、そういった他愛もない会話を暫く続けた。前世の昔話やこちらに来てからの様々なこと。そんなことをお互いに語り合った。先程まで身を包んでいた疲れなどどこかに吹き飛んでしまったような、とれも幸せな時間だった。 そんな会話を30分くらい続けた頃だろうか。ふと俺は気になっていたことを切り出した。 「なぁミライ」 「何?」 「お前、どうやって俺を見つけたんだ?」 この世界にきてから俺は、これまでに前世に関することを漏らしたことは一度もない。だからロティーナ・フレーヴェルと過去の私であるユーキが紐づくような情報は何もなかったのに、彼女は私をこの世界から見つけ出した。一体どうやって? 「簡単な事よ。さっき貴女が記憶を取り戻したのは6年前と言ったわよね?」 「ああ」 「私が記憶を取り戻したのもそれくらいだったわ。そしてその時こう考えたの。きっとユーキも記憶を取り戻したハズだって。そう思いついてからは簡単だったわ。人の世界に紛れ込んで情報を集める。私と同年齢でその時期を境に行動が大きく変わった人物をね」 「いや、そんな無茶苦茶な……」 結果としては当たりだったとはいえ、何の根拠も無茶苦茶な行き当たりばったりともいえる行動だ。 どれだけ探せば見つかるのかもわからない、いやそもそも存在するかもわからない相手を私より遥かに前から探し続けていた? 「でも見つけ出したでしょ? それに、会えれはすぐに気づけるって分かっていたから」 「いや姿から何から違う相手だぞ? 本来なら無理に決まっているだろ」 「20年間好きだった相手を、私は見誤ったりしないわ」 ……へ? 「むぐっ」 彼女の口から発せられた言葉がすぐに頭に入ってこず、動きを止めた瞬間──視界一杯に彼女の整った顔が近づき、そして唇に柔らかいモノが押し当てられた。 「っ……」 嫌悪感のようなものはなく、ただ突然の行動に驚いて後ろに下がろうとした私の頭と背中に彼女の手が回されその身が更に押し付けられる。その状況に頭の理解が追い付かず固まった私の体をミライは強く抱きすくめ、私の唇をさんざん堪能する。 30秒くらいして、ようやく彼女が身を離した。 そしてその濡れた唇を己の舌で舐めとるようにしてから、彼女はまた悪戯っぽく笑う。 「ごちそうさまでした」 「いや、その、何? 何?」 私はまだ混乱が収まっていない。彼女は今私に何をした? いやそれ以前に彼女はさっき何といった? 「お前、好きって……」 「ええ、ずっと好きだったわ。出会った最初の頃から、ずっと」 いや、それはおかしいはずだ。直接告白までしたわけではないにしろミライの事を好きだった俺がそういった雰囲気にしようとしても、彼女はのらりくらりとそれを受け流していた。好きだったらそんな態度をとるわけない。 そういった事をちょっと興奮気味に彼女に叩きつけたところ、彼女はあははと楽しそうに笑う。 「分かってたけど、やっぱりはっきり言われると嬉しいわね、好きだったって」 「う、ぐ、今はそういう話じゃないだろ!」 つい話の勢いで過去の自分の感情をカミングアウトしたことに気づき、顔が赤くなるのを感じつつも俺は彼女を問い詰める。 「分かってて好きだったなら、あの時受け入れてくれたって……」 「いやぁ、あの時はユーキは男だったからね……」 「……は?」 ……は? 「私さ、昔から男性恐怖症ってわけじゃないんだけど男とすることに対して一切興味が持てなくてさ。でもさ、恋人同士になったら当然そういったことも求められるじゃない? その時全く無反応のを相手にさせるのも悪い気がしてさ。だから──ずっと親友のままでいいかなって、そう思ってたんだ」 「……ええと」 理解が追い付いて来ないので頭を整理する。つまりミライは私の事が好きだったけど、男という性には全く興味が持てなかったのでそういった関係にはなれなかった。だが今この姿になった俺には自分から唇を合わせ、行為を包み隠さず叩きつけてくる。ようするに 「あれ? もしかしてお前ってそっちの方?」 「別に向こうで女の子を好きになったことはなかったから気づかなかったんだけど、実はそうだったみたい。好きな相手が好きな姿になった……もう何も我慢することはないじゃない? だから、奪いにきたよ、悪い虫がつく前に」 そういって彼女はもう一度抱き寄せ、私の唇を奪う。それから彼女はベッドから腰を上げると芝居がかった動きでひざまずき、こちらに腕を差し出した。 「お迎えに上がりました、お嬢様。どうかこの私と共に来て、この世界でずっと一緒に生きていってくれませんでしょうか」 そう言って彼女はよく見せる悪戯っぽい笑みを向ける。だが、こちらを見つめる藤色の瞳だけは真摯な光が宿っていた。 正直、頭が混乱している。このわずかな時間の中でいろいろな事がありすぎた。 彼女は深魔、そして私は魔導騎士、本来であれば敵対し殺しあう関係だ。一緒になる事など王国は当然認めない。だが彼女を選べば私はここにいられない。両親や姉妹、騎士仲間達と袂を分ける事になるだろう。ましてや深魔と共に消えたなどと知れたら多大な迷惑をかけるのは間違いない。 ──だけど、それでも。 混乱している中でも、見える道は一つだった。 16年と20年。過ごした時の長さは問題ではない。だけどその歳月の中に込められた思いの大事さだって、私の中では比べることにすらならなかった。 私はベッドから立ち上がり、彼女の手を取った。 「連れて行ってくれ。どこまでも──」 耳元で強い風の流れる音と、その音にかき消されないくらい近くからクスクスとした笑い声が聞こえる。 「ぎゅっとしがみついちゃって……可愛いわね」 「いや、こっちは空なんて飛べないんだから、そりゃしがみつくだろ!」 私は今、ミライに抱きかかえられたまま空の上にいた。夜空とはいえ王国の住人達に見つからないようにかなりの上空だ。先程ちらりと下を見てしまったところ体が完全にすくみ上りそれ以降は目を瞑って必死にミライの首筋にしがみついている。元の性別を考えると情けない状態ではあるが、こんな高さに身一つでいる状況では仕方ない。 「というか、お前空が飛べるほど高位な深魔だったんだな……」 「まぁねぇ」 飛行能力を持つ深魔は存在するが、その殆どは強い力を持つ高位な深魔だ。飛行能力といい、誰にも気づかれず城に潜り込んだことと言い、ミライはかなり高い魔力を持っていると考えられる。 「だから安心してね。深魔からも人間からも、この世の全てから守ってあげるから」 「……本来はそれ私の方がいうセリフだよね……」 「だったらもっと強くならないとねぇ」 見習い騎士と高位深魔じゃ今はレベルが違いすぎてどうしようもない。 「それで、これからどうするんだ?」 「んー、まずは不老長寿の霊薬が欲しいかな。このままだと私とユーキの寿命合わないからユーキだけおばあさんになっちゃう」 「いやまだ私16だよ?」 「年が過ぎるのは早いわよー。ずっと一緒に生きてってくれるって先約束したわよね?」 「そういう意味かよ……当てはあるのか?」 「ロンダ―ニュ地方を支配下に置いてる深魔の王の一人が持っているハズよ。そいつから強奪しに行きましょう」 「おおい!?」 「大丈夫大丈夫、私とユーキが幸せな家庭を築くのに邪魔するのは私が全部ぶっとばすから」 そう言って彼女は俺の体をずらすと、また唇を奪ってくる。 その突然の行動に思わず閉じていた目を見開いた俺の視界に、月をバックにした彼女の悪戯っぽい笑いが広がった。 「ね?」
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