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白い壁と天井。アイボリーの絨毯が敷かれた部屋。あとは机とベッドだけが置かれてあった。この真っ白な空間から、まだ何の色もついていない、僕のアメリカ生活がスタートする。いや、強制的に動き出した。
僕は大きな窓から外を眺めた。上下のガラスを動かして開ける仕組みのクラッシックな窓から、隣の民家や路地が見える。窓の縁に、何かのセンサーが取り付けられていた。"Security Alarm"と書かれている。侵入防止のセンサー。やはりここは日本とは違う。アメリカの治安が良くないことだけは、自分なりに調べて知っていた。
荷物を整理し、菓子折りを持って一階に降りた。階段を下りて右の居間に入り、奥のダイニングを抜けたところにキッチンがあった。そこにおじさんたちはいた。おじさんは日本にはよくある小さな食卓の席に着いてタバコを吸いながら、英字の新聞を読んでいた。おばさんはキッチンの前に立ってお湯を沸かしながら、お茶の用意をしている。
「日本のお菓子です。どうぞ」
僕はおじさんたちに日本から持ってきた菓子折りを差し出した。
「まあ! 本当に買ってきてくれたのね、日本のお菓子!」
おばさんが受け取って包装紙を解き、菓子箱を開けた。
「アメリカのお菓子は大味で甘すぎなのよ」
おばさんは急須に茶葉を入れ熱湯を注いだ。アメリカで急須というのに、僕は違和感を感じた。キッチン周りには日本の調味料がたくさん置いてあった。ケチャップやマスタードやコショーだけが調味料のアメリカンなキッチンを僕は想像していた。
「日本の物がたくさんあるんですね」
「高いけど、日本の物を手に入れることはできるのよ。日本と同じ品質のコメも売ってる」
日本式の電子ジャーが置いてあった。冷蔵庫が馬鹿でかかったり、ガスコンロが巨大な以外は、この家のキッチンの景色は日本と同じだった。
「おじさんもおばさんも、アメリカンフードは苦手でね。いつも日本の食材を探し回って買ってるんだよ」
「そんなにアメリカンフードっておいしくないですか?」
「おいしくないね。いかに日本食が旨いかって、タケちゃんもすぐにわかるよ」
僕は、アメリカでの食事のことを深く考えたことがなかった。
おばさんがお茶を入れた。
僕は緊張の糸がほぐれていった。その時、急に便意を催した。そういえば僕は日本を出国してから、一度もトイレに行っていなかった。
「すいません。トイレを貸してください!」
おばさんに案内してもらい、僕は1階のトイレに入った。他はユニットバス式だったが、ここのトイレだけ、トイレとして独立していて、とても広くてきれいで、いい香りがした。高そうなアイボリー色のムートンのマットが敷いてある。
用を足して、ほっとした時、思わぬことが起こった。僕は鼻血を出してしまった。疲れや環境の変化のせい? そして綺麗なアイボリー色のムートンのマットに一滴の鮮血が落ちた。用を足すのは一瞬だったが、この血を綺麗に拭き取るのにとても時間がかかった。僕はこの個室の中で自分がこの家の異物であるように感じた。
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