祈りのように

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-16-  おりたたみの財布を買ったあと僕は周囲を見渡した。近くにおじさんたちの姿はなかった。それでもそれほど遠くには行っていないだろうと思い、僕はササイフを買った売り場を抜け出して広い通路に出た。そして通路の両側にブランド衣料のテナントが続く空間を歩いた。  おじさんたちはすぐに見つかった。近くのラルフローレンの店にいた。僕は店頭に色とりどりのポロシャツが並べられている店に近づいていった。おばさんがラルフローレンの白いダウンジャケットを手にして眺めながら、おじさんと何やら話をしている。おじさんが僕に気が付いた。 「タケちゃん。いいサイフあった?」 「はい。無事に買うことが出来ました」 「ブランドものは、日本よりもかなり安いから、タケちゃんもアメリカにいるうちに買っておいた方がいいよ。ポロは日本の半額くらいで買えるよ」    僕はラルフローレンのブランドや、その代表的な商品であるポロシャツにも興味がなかった。ポロシャツの価格を見ると49ドル。日本円だと約4000円ということになり、これを日本で買うと約8000円くらいになるということか。 「これから寒くなるから、厚手のジャンパーもここで買っていったらいいよ。ポロは物がいいからおすすめだよ」  実際、僕は薄手のジャンパーしか持ってきていなかった。厚手のジャンパーは確かに必要だと思い、それにおじさんがポロを推すので、僕はここでジャンパーを買うことにした。ちなみに親から言われたカード利用制限額は月5万円である。  僕は店内に入ってジャンパーのコーナーを物色した。ドルの価格表示に戸惑いながら、100ドル前後の商品に狙いを定めていった。ちなみに、おばさんが手にしていたダウンジャケットは250ドルで日本円で2万円位。日本で買うとその倍の4万円位ということになる。  僕は数あるジャンパーの中から、99ドルのベージュのジャンパーを選んだ。黒にするか迷ったが、おじさんの着ているポロのジャンパーが黒だったので、かぶらないようにした。  会計をしている時、僕のカードを見ておじさんが言った。 「アメックスか」 「家族カードですけど」 「だろうね。でもそのカード、あまり使えないんだよね」  僕は、内心、えっ? と思った。 「さっきの店でも使えましたけど・・・」 「アメックスは使えない場所が多いんだ。ビザやマスターカードはどこでも使えるけどね。基本、アメックスは高級な店でしか使えないと思った方がいいよ。富裕層向けのカードだから」  アメリカなのにアメリカン・エキスプレスカードが使えない場所がある?! 突き放すようなおじさんの言葉に僕は平静を装ってはいたものの、内心は穏やかではなかった。  でも結局、アメリカ留学中の一年間、僕はこのカードだけで過ごした。少額の決済は現金で事足りた(むしろ少額なら現金しか使えないところが多かった)し、アメックスだからといって、それほど困ることはなかった。  
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