祈りのように

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                -3-  中学高校を経ても英語を勉強するという習慣が全くついていなかった。一時期、数学だけは熱中したことはあったけれども、英語は苦手だった。分からない単語に出くわしても、自ら英語の辞書をめくって調べることさえなかった。  本当に何を考えていたんだろうか、と、今では思う。何が「動詞」で「助動詞」で「副詞」で「接続詞」なのかがか分からなかった。本当に笑えない状況だったのだ。  渡米直前になって『アメリカ留学会話110番』という留学ガイド本を購入した。カセットテープ付きで、テキストに載っている英会話文が収録されている。僕はそれをたまに聞いた。聞かないよりはいいと思った。テープから流れる早口の英語(実際に収録されていたのは、綺麗で丁寧でゆっくりな発音だった)なんて、その時はまるで聞き取れなかったし、ぶっちゃけ、聞き取れるようになる日が来ることなんかないのでは、とさえ思った。  だとしたら、僕は今ここで何をしているのだろう。留学への体裁がいよいよ整うにつれて、僕はおびえ始めた。眠れない日が続き、飲んだこともないウイスキーをコップ一杯に注いでストレートのまま一気に飲んで気を失って吐いた。僕には立ち向かう敵がようやく強大に見え始めていた。    
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