祈りのように

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                -4- 「ちゃんと勉強してるのか?」  父親だけは常に僕を叱っていた。 「英語だって言葉なんだから、現地に行けば何とかなるよ」 「そんな気楽な気持ちで行くと言うのか!」 「気重(きおも)な気持ち行ったってどうしょうもないでしょ」  本来、大金を捻出してくれた父親に対して言える言葉ではない。自分はおろかだった。父は老後のために購入したであろう、土地やマンションを僕の留学費用を捻出するために売却した。  いよいよ留学の日。父と母と僕とで、空港へ行った。母とはいろいろな話をしたが、父とは一切会話がなかった。空港に着き、全ての手続きを終えて、僕は搭乗カウンターへ向かった。 「気を付けていってらっしゃい。がんばってね」  僕はふり返り、母の言葉に頷いた。父は最後まで何も言わず、僕と目が合いそうになると背を向けて出口へ向かって歩き出した。僕も父に背を向けた。そのままふり返らずに搭乗ゲートをくぐりぬけた。そして苦難の1年間が始まった。  
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