祈りのように

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                -7-  入国手続きを終えて、様々な人種の入り混じる空港の待合ロビーに出た。僕はすぐに、親戚のおじさんとおばさんを見つけた。僕はまだ緊張したままでいた。安堵も感じず、笑顔も出なかった。派手な色合いの服装の多い中、落ち着いた色の服装の夫婦に僕は歩み寄った。  僕がおじさんたちに最後に会ったのは、僕が中学2年の時だった。その時の僕は快活で、やんちゃで、人前ではいつも笑っているさっぱりとした短髪の少年だった。成績も良く、きっとおじさんたちにはそのイメージが付いていた。  今、おじさんたちの目の前に立っている人物。それは、かろうじて高校を卒業し、目指すものもなく、ただ無用に悩み、何事からも常に後ずさりをするような性格の、笑いもしない、少し髪の伸びた青白い顔の青年だった。 「よく来たね、タケちゃん」    おじさんが僕に言った。  おじさんは僕がまだ小さい時から僕のことをそう呼んでいた。おばさんは目を丸くして僕のことを見た。僕は二人にあいさつをした。 「よろしくお願いします」 「タケちゃん。ずいぶん変わったわねー。驚いちゃったわ」  おばさんが言った。   おじさんは僕の母の弟で、Y新聞社の記者だった。一年前からアメリカに赴任している。おじさんはとても意識が高く優秀でウイットに富み、豊富な知識に鋭い観察眼を持ち、物事を正確に公正にとらえ、幅広く興味を持ち、何事にもひるまずに挑戦する人。僕とは正反対の人物だった。  そのおじさんが僕をアメリカに呼んだ。僕が小さいころから僕を自分の子供のようにかわいがってくれたおじさんは、中学時代の僕のことを思い浮かべて、僕にアメリカという大きなステージを与えてくれたに違いなかった。 「じゃあ行こうか」  おじさんが言った。誰も笑顔を見せないまま、僕たちは空港を出た。  おじさんは一瞬で僕のことを見抜いたに違いない。僕がまだ「ここに来てはいけない存在」だということを。僕はそう感じた。
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