祈りのように

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-8-  人ごみから流されるように空港から出て、屋外駐車場まで行き、おじさんの車に乗った。青色の日産の『セントラ』という小型車。日本では『サニー』と呼ばれている。おじさんが左側の運転席に。おばさんが助手席に乗り、僕が後部座席に乗った。  おじさんはさっそうと車を発進させた。駐車場の料金支払いゲートで停まり、窓を開けて黒人女性のスタッフとさらりと何かを話した。おじさんの英語も、スタッフの英語も全く聞き取れない。特にスタッフの英語は早口で、ものすごくなまっていてはっきりと単語を発音していないように思われた。僕が聞き取れたのは、最後の"Thank you"という言葉だけ。入国審査官や税関の職員が、いかに僕にゆっくりと、はっきりと英語をしゃべってくれていたのかを痛感した。車が走り出した時、僕はおじさんに聞いた。 「僕は全く聞き取れませんでした。おじさんは聞き取れているんですよね?」  おじさんがようやく笑った。 「おじさんも、最初は全く聞き取れなかったんだよ」 「おじさんもですか!?」 「だから何度も繰り返し聞いた。ようやく慣れてきたところだよ」 「おばさんも聞き取れるんですか?」  僕はおばさんに聞いた。 「私は完璧に聞き取れるわけじゃないけど、買い物とか日常生活ならなんとなくわかるって感じよ」  そういっておばさんも笑った。僕は少しほっとした。 「タケちゃんなら、すぐに聞き取れるようになるよ。語学は若いころの方が習得が早いからね。おじさんたちなんか、すぐに追い越すよ。そのために、おじさんはタケちゃんをここに呼んだんだから」  僕もようやく笑顔になった。  空港から、広い土地の中を通る幹線道路を車は走り続けた。広い道路わきに建物が現れ始め、街に入った。車はメリーランド州に入り、閑静な住宅街を通って、おじさんの家に着いた。おじさんはここから、ワシントンD.C.の中心部にあるプレスセンターに通っている。  おじさんの家は、ガレージ付きで、地下1階、地上に2階建で部屋が10もあり、バスルームが3つもある豪邸だった。それでも、この地域では標準的な大きさの家で、ここまで来る途中に、僕は巨大な屋敷をいくつも目の当たりにした。住宅街の家の敷地は広く、日本なら、6軒は建つほどの余裕の土地に建てられており、庭も広く家の前に何台も車を停められるほど土地に余裕があった。  僕がおじさんの大きな白い屋敷に入ると、さっそく僕の使う部屋まで案内してくれた。玄関で靴を脱ぎ(アメリカでは基本は土足だが、おじさんの上では日本式に靴を脱いで家に上がった)、おじさんが正面の階段を2階へ上っていった。 「ここがタケちゃんの部屋。バス・トイレは隣。誰も使っていないから、タケちゃん専用だね。 落ち着いたら、1階の居間へおいで」  そう言っておじさんは1階へ下りて行った。  
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