318人が本棚に入れています
本棚に追加
9.一緒に。
あの後、電話したらおかんがまだ起きてたので、夕飯を用意してもらって、葵を家に連れて帰った。ご飯を食べてから、順番に風呂に入って。オレの部屋に、ひとつ布団持ち込んでベッドと並べた。
普通にご飯とか食べながら、でも心の中は、ふわふわして全然落ち着かない。
全部終えて、部屋に二人で入って。
普段はほとんどかけない、部屋の鍵をかけて。かけた所で立ち止まったまま。
「――――……」
いや、別に変なことしようと思うてる訳やない。おかんが入ってきたら嫌やし……って、決してやましいことしようとしてる訳やないけど……と、自分に言い訳をしていると。
「大和、何してんの?」
笑いを含んだ声で問われて、振り返る。
「――――……鍵……しめとく?」
「え」
固まった葵が、かっと赤くなった。
その顔を見て、うわ、と思って。
「あ、あけとくわ。オレ、別に、変なことしようとした訳やなくて」
「……しめて」
「え?」
今なんて?と、振り返ったら、葵は、布団の上で座ったまま、オレをじっと見上げる。
「閉めて、こっち来てよ」
「――――……」
「別に……変なこと、しようとしてる訳じゃ、ないよ……」
ちょっと恥ずかしそうに、オレが言った言葉を引き継いで、葵が言う。
「――――……ん」
頷いて、ドアから離れて、葵に近付く。
でも、布団の上、葵の隣に座らず、自分のベッドの上に腰かけた。
「……何で離れんの」
「んー――――……無理」
「え?……無理って??」
葵が下から見上げてくる。
……ていうか。
パジャマ着て、布団の上で、この角度で見上げられるって。
……めちゃくちゃ好きだと、思い切り確信したばかりなのに。
どないしよう、この状況。
「……オレそっち座ったら……触ってまいそう」
「さわ……っ……もー、大和……」
また赤くなった葵が、もう可愛くてしょうがない。
オレは、赤くはならないみたいだけど。
――――……心臓、ドキドキして死にそうな気すらする位。
「……触るって……どんなの?」
「――――……分からんけど」
「…………ていうかさ」
「――――……」
大和は、膝立ちすると、そのまま移動してきて。オレの膝に触れて、真下に来た。
「……別に、触ってもいいのに」
「――――……ええの?」
「……好きだって、言ったじゃん……?」
綺麗な瞳。
ちょっと心細そうに、眉が寄る。
「葵」
ベットから降りて、葵の目の前に座って、肩に手をかける。
「オレな、ちゃんとはっきり認めたのはさっきやけど……ずっとお前の事好きやて思うてた」
「――――……」
「ずっとお前の事、頭にあって。ずっと――――……」
何て言ったらちゃんと伝わるだろうと、思いながら、少し言葉に詰まったら。オレをじっと見つめていた葵が。ふ、と笑んで。
「……大和が、好き」
ものすごくゆっくりと。
葵が言って、オレを見つめる。
「――――……葵」
「……ん?」
「オレと、付き合うて」
「――――……」
「……えっと――――……あれや、あれ」
すごく驚いた顔でじっと見られて、かなり焦る。
「……あの――――……『結婚を前提に』ってやつが良い」
ますます、目をぱちくりされて。
えーと、何や違う。いや違くはない……と困って後頭部を搔いた時。
「大和――――……あの……」
「ん?」
「……ほんとに、いいの? オレで」
「……いい、に決まってるやろ? 何で聞くん?」
「男、だし……」
少し視線を落とした葵に、 なんだかたまらなくなって。
ぎゅ、と抱き締めた。
「オレな、女と付き合うても、結局お前と居たくて別れてたんよ」
「――――……そう、なの?」
「……うん。そう。……おかしいんかなて、思うてたけど……」
「――――……」
「ずっと、ほんまに好きやったんやって、今は分かる」
ふ、と葵が少しだけ笑う気配。
少し腕を離して、顔を見ると。
「オレも同じ……結局、大和と居る方が好きだったから――――……」
「……同じか」
「……うん。そうだね……」
心細そうな顔が、少し、嬉しそうな笑顔に変わる。
それを見ていると、こっちまで嬉しくなって。
「オレ、葵の笑った顔が、いっちゃん好き」
「――――……」
「……受験とか、大学とか、全然決まってへんし。その後の事とかもまだまだ、分からんけど」
「――――……」
「……――――……どうなっても、一緒に居よ?」
「……どうなってもって?」
じっと見上げてくる。
「遠距離でも、ずっと一緒やし。……でもなるべく一緒に居られる方法考えよ? ……まあ、ぱっと浮かぶんは、大学一緒がええなっていう……オレ、東京の大学でもええし。そしたら、二人で暮らせばええし」
「……オレが大阪でもいいよ? 勉強なんか、どこでも出来るしさ」
「はは。……相変わらずそーいうとこ、カッコええな?」
葵の頬、摘まんでしまう。からかうなよ、と笑う葵。
「オレ、ほんま、ずっとお前がいっちゃん好きやった」
「――――……」
オレを見上げて、じっと見つめて。
「うん。……オレも。おんなじ――――……」
じいっとオレを見つめてる葵の瞳が、突然潤んで。びっくりしたオレは。
それが零れる前に、抱き締めた。
「――――……葵」
ぎゅー、と抱き締めてると。
少し笑う気配。
「……大和」
そろそろと、背中に手が回って。
きゅ、と服を握られる。
そのまましばらく無言で、ぎゅ、とくっついてた。
最初のコメントを投稿しよう!