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「蒼い空だな、どこまでも、どこまでも、ずっと続いていて」
私はずっと空を見ていた、飽きもせず、退屈になる事も、あくびをする事も無く、ただずっと、ひたすら空を眺めていた。
向こうから子供たちが列を右に左に、列を作って下さい! と保育施設の「せんせい」を散々に困らせながら、よたよたぴょこぴょこと歩いてくる。
「やあ、こんにちは」と私は努めて明るく、小さな子供たちを驚かせない様に、笑って笑顔で挨拶をした。
だが、子供たちも先導するせんせい達も、私を見た瞬間から氷の様に表情を固まらせて、急に行進の列を作りさっと目の前から消えて行く。
「どうしたんだい?」と私は話しかけようとしたが、そんな時間も与えてくれず、すっと居なくなってしまった。
「ふー、かなり私はかわいらしく見えるんだな子供たちには、先生たちまでもか。これからはもっと、怖さでも身に着けないとな」
私は、空に向かって、指で口を左右に広げ笑う練習をした。いかにもぎこちなく、どうにも口が広がらない。自分ではワニの様にアナコンダの様に大きく開けてると思った口は、小指一本すら入らない程固く閉ざしていたようだ。
その証拠に、私の指は少し曲がっていた、不自然な方向に。
ゆっくりと、ゆっくりと空は流れる、私は空をずっと眺めている。
青い空に、赤い空、茶色い、金色の、灰色の、緑の、黒色の、空を。
「やあ君、ちょっと?」
「、、! 、、」
私は一人の青年に声を掛けた、青年と思っていたがよく見るとまだ髭も産毛のくらいの、少年の面影を残すような幼い顔立ちの男性だ。
「どうしたんだい、怖い顔をして? 私は人食い熊かい?」
「あなた、、あんた!」
「おや、随分と深刻な顔をしているな? 話してくれないか私に、多少の事なら力になれるぞ、どうだい?」
私は努めて明るく青年に話し掛けた、こんな綺麗な空で詰まらない事からもめ事を起こして、問題にする程「暇人」ではない。それに私は「人の悩みを聞いて解決してあげる」のが、使命であり職務であり、「義務」だと思っているからだ。
「話す事はない、あんたなんかに。もう遅いんだよ全部」
「それはどうかな? 君が思っている程非力ではないぞ私は。君は逞しい、強さと厳しさと、やさしさがある。そんな人間なら、どんな困難に直面しても乗り越えられる力がある」
と、私は青年に勇気を力を与えるように、優しく、力強く、話し掛けた。そう、若者から未来に向かって羽ばたこうとする力を奪ってはならないからだ。
すると青年はしばらく考え込んで、こちらを見て「今あんたは、どういう気分で俺に向かって、俺たちに向かって言ってるんだ」と私を突き放すように、ぶっきらぼうな愛想のない声で話してきた。
「おい、どこへ行くまだ話を聞いてないぞ私は! 君は悩みを打ち明けたいんだろう? 人に話せば解決する事もあるんだよ」
「話す事は無い、あんたにだけは!、、無駄なんだよ全部あんただけは」
青年は抑揚のない声になって、ポツリポツリと何かを言いながら、私の前から消えて行った。
彼は私に何か伝えたかったのではないだろうか? それともやはり私の容ぼうがまだまだ「可愛らしさ」や「親しみやすさ」に溢れていて、近寄るのが厚かましいから離れて行ったのかと、深く考えこんでしまった。
だが、空はまだまだずっと青く、私の目を占めている。どこまでも、どこまでも、果てしなく青く。
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