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「乙華、あなたいつもどうやって能力を抑えていたんですの?」
『わからない。わからないの』
勝手に入った屋上の隅っこで、しゃがみ込む。
「早くなんとかしてくださいませんと、私の実家の株が上がりっぱなしなんですのよ。まぁ、全く困りませんけども」
凛はスマホで後藤嶋グループの株価グラフを開いて私に見せる。関係各所の右肩上がりの線がどんどんと上昇していっていた。
何か大切なことを忘れているような気がする。けれど、全く思い出せないのだ。思い出したくない。彼のことは記憶からなかったことにして綺麗さっぱり忘れてしまいたい。ーー彼って誰?
「そういえばあなた毎日飴がどうとか言っていましたわ」
『そうだ。飴……』
昨日、カバンに詰め込んだ飴を舐めると、呼吸が楽になった。凛のスマホを見ると上がった株価がどんどんと下がっていくのがわかる。
『この飴、誰から貰ったんだろう?』
「ねぇ、乙華。私、あなたとお友達になったきっかけが思い出せませんの。もしかしなくてもこれ、一昨日のやつじゃないんですの?」
一昨日話した話題がぼんやりと思い出される。
『空白病』
私は一体、誰を忘れてしまっているんだろう。
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