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「乙華さん、僕、あなたのことが好きなんです」
嘘だ。
これは絶対に嘘だ。”彼”はいつもいつも嘘ばかりついてくる。
『私のことを何にも知らないくせに、好きとか適当なことを言わないで』
そうだ。私は彼を否定したい。
私のことを何も知らないくせに。私のことを何も理解しようとしないくせに愛情のような何かを向けてくる彼が苦手だ。
「だってそれは、あなたが僕に何にも教えてくれないからでしょう? 僕はあなたのことが好きで、ずっと待っていたのに」
それは違うと私は彼の気持ちを何度も踏みにじった。それは勘違いだと言いながら。錯覚だと言いながら。何度も何度も踏みにじった。
(だって、それは恋に恋する女の子の気持ちとなにが違うの?)
彼から送られる愛情のようなソレは、実際には愛情ではない。
(両手で受け止められないくらいの”愛して”だ)
居場所のない私を捕まえて、隣に置きたいというエゴ。それを恋だというのなら、この世の物語の殆どに謝ってもらいたい。
私でなくても誰でも良かったそれを、彼は出会いの希少さで運命という幻想にしたんだ。
(でも、中には本当の”好き”もあるから、心の底からは嫌いにはなれない)
そんな私は彼を完全に拒絶できない。受け入れることもできない。ここでもまた、どこにも行けないまま。
夢から覚める前に聴きなれた声がした気がした。
「あなたはまた勝手に僕のことを忘れるんですね」
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