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幸いなことに向こうの2人が私に気がついている様子はない。このままスマホを触るでもなく、息を潜め、音を立てず5分もじっとしていれば難は去るだろう。
「先輩のこと、一目見たときから好きだったんです!」
私の同級生を先輩呼びということは1年生だろう。女の子の顔は見えないが、声からは緊張が伝わってくる。うむ、青春だ。
だからこそ私には関係ない。
耳を塞ぎ目を閉じると、目論見通り5分が経った後に2人はいなくなり、私は物陰から解放された。しかし、私は用心深くもう少しこの場で待機をすることにした。
見つかりたくないのだ。絶対に。
朝のチャイムギリギリの時間まで粘った後に人のいなくなった裏の角を曲がろうとしたその時、私は見つかってしまった。
「ねぇ、速切さん。どこに居たんです?」
同級生はめざとく私を見つけていたようだ。そして、待っていたのだ。そう、この同級生はそういう男の子なのだ。知っていた。
『ちょっと近くに......』
「僕は速切さんが告白の間息を潜めていたのを知ってますし、ばっちり存在を確認しています」
私は諦めた。
『林くん、後輩の女の子に好きって言われてたよね。付き合うの?』
「林じゃなくて森永です。付き合いませんよ? だって、僕さっきの子に全然興味ないですから」
『そうなんだ』
心底どうでもいい。どうでもいいけれど、付き合ってくれた方が私には都合が良かったかもしれない。
「速切さん、心底どうでも良さそうですよね。少しぐらい興味を持ってくれても良いんじゃないですか? 僕は悲しいです。僕はこんなに速切さんのことが好きなのに」
そう、この森永くんは私のことが好きだと言うのだ。そして、私はそんな彼を鬱陶しくすら思っている。
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