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警部に報告する前に一度見ておこうとなったのは、写真に映る京極竜樹の印象というものが想像とあまりにも違っていたからだ。
現在の顔は知らないが、やっている事くらいは耳にする。中国マフィアや上海、香港など日本の法律が通用しない彼らと渡り歩く男は、どう見たって写真の中にはいなかった。
穏やかな笑みを浮かべて隣にいる伊藤茉莉子を意識して立っている、そんな印象を受けた。
だがその一方で、京極組は関東を牛耳るだけの存在なのは確かで、素性の分からない中国人の遺体が上がれば、真っ先に疑うのは京極組だ。
水面下で行われる抗争には終わりが無くて、一般人にいつ危険が及ぶのか分からない状態がずっと続いているのだから。
料亭 花山は昔から政治家に利用され、秘密厳守で花山から情報を得られたことは一度たりとも無い。
高い壁に囲まれた厳粛な雰囲気の中で食べるバカ高い食事は、見張っている俺や北村じゃ一生縁の無いものだろう。
「腹減ったな」
直後に北村の腹からグーッと音がする。体が大きいと腹の音も大きいらしく、呆れた顔を向ければ北村は小鼻を膨らませて資料に視線を落とした。
「なあ、これ読むと不思議なんだよな」
「なにが?」
欠伸を噛み殺し北村の言葉を待った。まったく読み終えていない調書はあまりに時間がかかりそうで、もはや興味すら出てこなくなってしまってる。此処で待つのは、ただ京極竜樹を見てみたいという低俗的な意味の方が強い。
「周りの人間が京極竜樹が極道の息子だって知ったのは、警察が睨んだからなんだよ。それまでは普通の好青年だった」
「好青年ね……でも単なるサイコパスかもしれないし?」
退屈な時間が過ぎ、動きがあったのはこんな話をしていた直後。
花山の門が左右に大きく開いて中から京極竜樹の車番、黒いベントレーがゆっくりと出てくる。運転しているのは彼の手下で、京極竜樹は後部座席に座っているらしく顔は確認出来ない。
スモークの貼られた窓は漆黒で人の気配すら感じることは出来なかった。
「よっしゃ、行くぞ」
北村は車を動かし始めて徐々にベントレーのスピードは上がっていく。距離を保ちながら後を追い、京極組の事務所がある歌舞伎町まで向かった。
「この調子じゃ事務所だろ」
「適当に停めて徒歩で行くか」
「お、倉橋、やる気がまっったくねーな」
「うるさいな」
事務所の場所は既に分かっていた為、途中で近くに車を置くと北村と共に徒歩でビルへと向かう。キャッチを適当にあしらい、ホストクラブやキャバクラ、風俗店と多くの店が並ぶそこは東京23区の中でも治安の悪い場所だ。
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