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あの会話した日から、相変わらず美波ちゃんは平日にも関わらず書庫にいる。でも、毎日ではない。何故なら──。
「平井さん。明日は登校日だから、借りた本は明後日返すね」
「わかった」
通信制の高校に通い始めたからだ。
あのあと僕が貸した本を読んで、色々と考えた美波ちゃんは両親に学校で受けている嫌がらせのことを言った。そのために今の学校を辞めて通信制の高校に行き、大学を目指したいという自分の正直な気持ちを伝えたのだ。
「平井さんが貸してくれた追放ものの本を読んで、思ったの。何で私が周りに合わせなきゃいけないのかなって……独りよがりはダメだけど、仲間はずれにして嫌がらせしてくる奴らに合わせる必要なんてない」
と、後日美波ちゃんが教えてくれた。
「あと、前に平井さんのこと『投げ出した人』って言ってごめんなさい……それで、あの、これからどうしたらいいか、相談していい? お父さんにいきなり言うと、また喧嘩になりそうで」
その後、「亀の甲より年の劫」ということで白鳥さんも交えて──これは美波ちゃんの希望で──話し合い、先ほどの内容を田中さんたちに伝えた。
田中さんは頭が固いというか、自分や他人に厳しい人だが、ちゃんとした理由があれば聞き入れてくれる人だと思う。
現に少し揉めたらしいが、その揉めた内容も通信制の高校に通うことではなく、娘を虐めた同級生への責任追及についてだったそうだ。もう関わりたくないという美波ちゃんの意向から、結局止めたらしいが。
「私ね、大学で文学部に行って文学について学びたい。それで、小説家になろうと思うんだ……インク鳥の力を借りず、自分自身で最初から最後まで作りたいの」
と、美波ちゃんは清々しい笑顔で言った。
彼女はここで本の虫として働けるほどの本好きで……つまり、それだけの集中力があるのだ。きっと以前言っていたように、傷ついた人の心を癒してくれる素晴らしい本を書くだろう。
既に家では少しずつ書いては、たまに僕や白鳥さんに読ませてくれた。
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