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王子中の敷地へ入った、塩田たち。下校時間だったため、すれ違う人が多い。周囲の視線を塩田が集め、背後にギャラリーが列を作っている。それを西宮は目撃し、塩田の手をつかんで早歩きで進んだ。
「まちあわせ場所は、校門を入って建物ぞいに数メートルまっすぐ進み、建物の角を左にまがった場所にあるベンチだ。目印はテニスボールとラケットの2つ。テニスボールをラケットでバウンドさせてまっていると、相手からラインがきた! いざゆかん。内通者の下へ!」
後ろでふえ続けるギャラリーを無視して、先をいく西宮。
まちあわせ場所のベンチには、意外な人物がいた。
「佐竹?」
目をぱちくりさせておどろく、塩田。
テニスボールをラケットで弾きながら、佐竹はベンチに座っていた。ボールを左手でキャッチし、ラケットを動かすのをやめる。
「塩田じゃん、どうしたんだよ! なんか珍しいペアだな!」
うれしそうに塩田にかけよる佐竹。塩田は、素朴な疑問を口にした。
「ビックリした。佐竹って王子中だったんだな。もしかして西宮がいってた内通者って、佐竹のこと?」
「そうそう、内通者! あ、これ入館証な」
佐竹は自分をさして、にっこりと笑う。首からさげていた入館証をはずし、塩田らに渡した。
「一応今日は、外部から練習試合をしにきたって形で、入館手続きしといたから! コートはこっち」
先を進む佐竹の後をついていく、塩田らとギャラリー。塩田があわてて、佐竹の服のすそをひっぱる。
「ちょっとまって! 試合するなんてきいてない! ウエアもシューズもラケットも、家にあるよ!」
そこにわって入る、西宮。
「安心しろ! 今日、試合をするのは俺だ!」
「西宮が試合をするの?」
塩田がキョトンとした目で西宮をみる。
「そうだ。出来るだけねばるから、塩田はしっかり佐藤のプレイをみててほしい!」
「いってくれたら、俺がでたのに」
残念そうにいう塩田に、西宮は叫んだ。
「あまーい! 甘いぞ、塩田翔!
敵に手の内を見せてどうする。こういうのはな、こっそり爪を隠してこそ偵察になるというものだ!」
ビシッと塩田を指さし、どや顔をする西宮。
「西宮の手の内はバレてもいいんだ」
苦笑いする塩田に、西宮は胸をはった。
「俺はダブルス専門だからな!
シングルスで負けても、屁でもないわ!」
高笑いする西宮。それをみて、佐竹が塩田の耳元で話す。
「あの謎な自信、どっからわいてでてくるんだろうな~。俺にもわけてほしいわ、最近ランキング低迷してるし」
佐竹はべっと舌をだす。それに対し、困ったように笑顔を返す塩田。
「佐竹、頑張ってるじゃん。きっともう少ししたらスランプからぬけられるよ」
「だといいけどな~。全国ランキング一桁の人はいうことが違うわ~」
「からかうなよ~!」
パシッと佐竹の背中をたたく塩田。
再び歩き出し、じゃれあうふたり。それをみて、西宮が聞いた。
「他校生なのに親しいんだな、ふたりとも。どういったつながりなんだ?」
塩田がそれに答える。
「ああ。そういえば紹介がまだだったね。佐竹とは同じテニススクールに通っている仲間なんだ。で、西宮とは同じ中学。テニス部への勧誘がきっかけで知りあったんだよ。
二人こそ、どういった繋がりなの?」
佐竹が、塩田の肩に手をまわす。
「うちの学校に、佐藤っていうめちゃんこテニスが強い奴がいんのよ。で、最近伸び悩んでる俺は、佐藤のプレイから何かヒントがえられないかと思って、試合をみにいったんだ。そこで不信な行動をとってたのが、西宮。話聞いたら次、うちのテニス部と試合があたるっていうから、面白そうだと思ってライン交換した!
まさか塩田のしりあいだとは思わなかったな。思わぬ収穫をえた!」
「楽しむなよ、佐竹~!
それにいいの? 俺たちに肩いれして。
テニス部と険悪にならない?」
心配そうにきく塩田に、佐竹はカッカッと笑った。
「だーいじょうぶ!
佐藤ってほんとにすげぇ強いから!
塩田でも負けちゃうかもよ?」
若干、ムッとする塩田。
「それはやってみないと、わからないんじゃない? 俺、最近調子がいいから勝つつもりでいくよ?」
佐竹の目が光った。
「ほーう。それはなかなかの意気込み。俺としても佐藤と塩田ってホコタテ感あるから、実際試合してんのみてみたいわ」
そんなふたりの間に手をつっこんで、平泳ぎするみたいにひき離す西宮。
「だが残念。今日は俺が相手します!」
「西宮~! いきなりでビックリするだろ!」
ははっと笑う塩田の笑顔が愛らしく、西宮と佐竹は頬をポッとピンク色にそめた。
「もうすぐコートにつくよ。ギャラリー多いから気をつけてな」
佐竹はそういうと、建物の角を右にまがる。
そこには広々としたテニスコートが3面があり、一番左のコートに人だかりができていた。
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