いざ、偵察……!?

3/5

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
王子中の敷地へ入った、塩田たち。下校時間だったため、すれ違う人が多い。周囲の視線を塩田が集め、背後にギャラリーが列を作っている。それを西宮は目撃し、塩田の手をつかんで早歩きで進んだ。 「まちあわせ場所は、校門を入って建物ぞいに数メートルまっすぐ進み、建物の角を左にまがった場所にあるベンチだ。目印はテニスボールとラケットの2つ。テニスボールをラケットでバウンドさせてまっていると、相手からラインがきた! いざゆかん。内通者の下へ!」 後ろでふえ続けるギャラリーを無視して、先をいく西宮。 まちあわせ場所のベンチには、意外な人物がいた。 「佐竹?」 目をぱちくりさせておどろく、塩田。 テニスボールをラケットで弾きながら、佐竹はベンチに座っていた。ボールを左手でキャッチし、ラケットを動かすのをやめる。 「塩田じゃん、どうしたんだよ! なんか珍しいペアだな!」 うれしそうに塩田にかけよる佐竹。塩田は、素朴な疑問を口にした。 「ビックリした。佐竹って王子中だったんだな。もしかして西宮がいってた内通者って、佐竹のこと?」 「そうそう、内通者! あ、これ入館証な」 佐竹は自分をさして、にっこりと笑う。首からさげていた入館証をはずし、塩田らに渡した。 「一応今日は、外部から練習試合をしにきたって形で、入館手続きしといたから! コートはこっち」 先を進む佐竹の後をついていく、塩田らとギャラリー。塩田があわてて、佐竹の服のすそをひっぱる。 「ちょっとまって! 試合するなんてきいてない! ウエアもシューズもラケットも、家にあるよ!」 そこにわって入る、西宮。 「安心しろ! 今日、試合をするのは俺だ!」 「西宮が試合をするの?」 塩田がキョトンとした目で西宮をみる。 「そうだ。出来るだけねばるから、塩田はしっかり佐藤のプレイをみててほしい!」 「いってくれたら、俺がでたのに」 残念そうにいう塩田に、西宮は叫んだ。 「あまーい! 甘いぞ、塩田翔! 敵に手の内を見せてどうする。こういうのはな、こっそり爪を隠してこそ偵察になるというものだ!」 ビシッと塩田を指さし、どや顔をする西宮。 「西宮の手の内はバレてもいいんだ」 苦笑いする塩田に、西宮は胸をはった。 「俺はダブルス専門だからな! シングルスで負けても、屁でもないわ!」 高笑いする西宮。それをみて、佐竹が塩田の耳元で話す。 「あの謎な自信、どっからわいてでてくるんだろうな~。俺にもわけてほしいわ、最近ランキング低迷してるし」 佐竹はべっと舌をだす。それに対し、困ったように笑顔を返す塩田。 「佐竹、頑張ってるじゃん。きっともう少ししたらスランプからぬけられるよ」 「だといいけどな~。全国ランキング一桁の人はいうことが違うわ~」 「からかうなよ~!」 パシッと佐竹の背中をたたく塩田。 再び歩き出し、じゃれあうふたり。それをみて、西宮が聞いた。 「他校生なのに親しいんだな、ふたりとも。どういったつながりなんだ?」 塩田がそれに答える。 「ああ。そういえば紹介がまだだったね。佐竹とは同じテニススクールに通っている仲間なんだ。で、西宮とは同じ中学。テニス部への勧誘がきっかけで知りあったんだよ。 二人こそ、どういった繋がりなの?」 佐竹が、塩田の肩に手をまわす。 「うちの学校に、佐藤っていうめちゃんこテニスが強い奴がいんのよ。で、最近伸び悩んでる俺は、佐藤のプレイから何かヒントがえられないかと思って、試合をみにいったんだ。そこで不信な行動をとってたのが、西宮。話聞いたら次、うちのテニス部と試合があたるっていうから、面白そうだと思ってライン交換した! まさか塩田のしりあいだとは思わなかったな。思わぬ収穫をえた!」 「楽しむなよ、佐竹~! それにいいの? 俺たちに肩いれして。 テニス部と険悪にならない?」 心配そうにきく塩田に、佐竹はカッカッと笑った。 「だーいじょうぶ! 佐藤ってほんとにすげぇ強いから! 塩田でも負けちゃうかもよ?」 若干、ムッとする塩田。 「それはやってみないと、わからないんじゃない? 俺、最近調子がいいから勝つつもりでいくよ?」 佐竹の目が光った。 「ほーう。それはなかなかの意気込み。俺としても佐藤と塩田ってホコタテ感あるから、実際試合してんのみてみたいわ」 そんなふたりの間に手をつっこんで、平泳ぎするみたいにひき離す西宮。 「だが残念。今日は俺が相手します!」 「西宮~! いきなりでビックリするだろ!」 ははっと笑う塩田の笑顔が愛らしく、西宮と佐竹は頬をポッとピンク色にそめた。 「もうすぐコートにつくよ。ギャラリー多いから気をつけてな」 佐竹はそういうと、建物の角を右にまがる。 そこには広々としたテニスコートが3面があり、一番左のコートに人だかりができていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加