16人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
3面あるコートが、金網でかこまれている。その中にある左端のコート周辺には、男女半々のギャラリーが大勢ひしめきあっていた。
「なんのさわぎだ、これは……」
西宮がにぎわっているギャラリーをみて、佐竹にきく。
「このギャラリーの数、佐藤がコートでプレイしているみたいだな」
ギャラリーの後方にたち、せのびをしてコート内をみる佐竹と西宮。塩田が佐竹にきく。
「佐藤って、さっき強いっていってた選手だよね?」
「うん、そう。くそ、ここからじゃ、わかんないな」
せのびをしながら、眉間にシワをよせる佐竹。その場でジャンプしながら、コート内をみようとする西宮。さりげなく塩田の後方に列を作っていたギャラリーが、U字型に塩田をとりかこみ始めていた。
「ちょっと俺、きいてくるわ!」
佐竹がギャラリーの後方にいる女子に、声をかけにいく。
「あの、ちょっといい?
今、すごく人が集まってるけど、なにかやってるの?」
女子はふりかえると、説明した。
「あ、佐竹先輩。いま佐藤先輩が、王子中名物、地獄の1ゲームマッチをしてるんです!」
「地獄の1ゲームマッチ?」
佐竹と塩田の声がハモる。
いつの間にか、塩田は佐竹の後ろに移動していた。
それにあわせて、塩田のギャラリーもふたりの周囲をとりかこみ、ちょっとやそっとでは抜け出られないような状況になった。佐竹はしまったと思う。
そんな佐竹の心配など気にもとめず、女子は顔をまっかにして塩田をみてつぶやいた。
「お、王子様……?」
塩田は頭に?マークをつけてこう返した。
「いや、違うよ。恋仲中の塩田っていいます。よろしくね」
にこっと笑う塩田をみて、後ろへ倒れそうになる女子。それをくいとめようと手をのばし、自分の方へひきよせる塩田。ひきよせられた女子の鼻に、ふわりと石鹸のにおいが香る。
「い、いいにおい……」
「ありがとう、柔軟剤のにおいかな?」
間近で塩田の王子様フェイスを直視して、いよいよ気絶しそうになる女子。それを救ったのは、意外な人物だった。
「ええい、どけい!」
塩田の背後から、西宮が平泳ぎするみたいに人と人との間に手をのばしてひき離し、塩田のそばにやってきた。
「西宮……強引にきたな」
佐竹が呆れていう。
「あ、あの、もう大丈夫ですので!」
いって、女子は塩田の腕の中からぬけだした。
「あ、ごめんね、急に。後ろに倒れたら危ないと思って、とっさにひきよせちゃった」
「いえ、こちらこそ。役得でした」
「役得?」
目を丸くして首をかしげる塩田に、佐竹がつっこんだ。
「お前、本当に天然だな!」
「え、どこが?」
「そういうとこだよ……」
呆れたまなざしで塩田をみる佐竹。塩田の顔のよさに少してれてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!