いざ、偵察……!?

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「あ、あの私。田中といいます! 塩田さん。さっきは助けてくださって、ありがとうございました! それで、えっと。地獄の1ゲームマッチのお話でしたよね?」 「地獄の1ゲームマッチとは、なんだ!?」 西宮が、田中と塩田の間に割って入る。 「えっと、あなたは一体?」 「恋仲中テニス部部長、西宮だ!」 「部長さん?  もしかして、塩田さんと共に試合しにきたんですか?」 塩田が残念そうにいった。 「今日試合するのは、西宮だけなんだ」 「そうなんですか……。残念です。 塩田さんと佐藤先輩がプレイする姿、みたかったのにな」 田中がしゅんとして下をむく。それを下からみあげるように、西宮が顔をのぞきこんでいた。 「ひゃあ!」 田中はあわてて顔をあげる。 「よし、泣いてないな!」 満足げに腕をくみ、うなづく西宮。 「で、地獄の1ゲームマッチとは?」 西宮が田中をガン見して聞いた。 「こわい、こわい!」 佐竹が西宮の顔面に手をあて、後ろにおした。 塩田が西宮の体を後ろから支える。 「ありがとうございます、佐竹先輩。 地獄の1ゲームマッチは、勝ちこし戦です! 1ゲーム先にとったほうがコートに残って、次の対戦相手と戦うっていうルールで。 今、佐藤先輩がプレイしてるんですけど、もう18人ぬきしてるんです! 他校の有名選手も試合しにきてるのに、誰も勝てなくて! 部長の富士先輩もさっき負けたんですよ! すごいですよね!」 「1ゲームずつってことは、1セット6ゲームだから、ちょうど3セットおわったぐらいか。なかなか面白そうなことしてるじゃん」 佐竹がニヤリとわらう。 「俺、挑戦してこようかな。 どこで試合の受付してるの?」 「コートの外に、ラケットを持って並んでいる列があるんで、そこにいけば試合ができるみたいです!」 「そっか、サンキュ! 西宮もやるんだろ? 一緒にいこうぜ!」 佐竹が西宮の肩をだいて、後ろをふりむいた。 すると塩田をかこんでいたギャラリーが、モーゼのように道を作る。コートへいきやすいようにしてくれた。 塩田がさみしげにふたりの背中を見送る。 佐竹たちがさったあと、再びギャラリーが塩田の退路をふさいだ。塩田は仕方なくコートをみる。 「ここからじゃ、あまりよくみえないね」 塩田は何気なくいった。 しかしその瞬間、塩田の前にいたギャラリーがモーゼよろしく左右に分かれる。 「えっ!」 ビックリする塩田。ギャラリーの一人がいった。 「王子! よかったら最前列で観戦してください!」 塩田は左右に視線をむけ、王子を探した。 「あなたですよ。そこのキョロキョロしてる人!」 「あ、俺?」 自分に指をさす塩田に、全力で頷くギャラリーの面々。 「とにかくどうぞ。先頭へ!」 後ろからおされるようにして、塩田は金網の前につれていかれた。 「あの、ありがとうございます!」 塩田が大声でお礼をいうと、ギャラリーが拍手した。 「気にしなくていいの。イケメンごしにみる佐藤くんもまた、おつだから。ね、みんな!」 いつの間にか隣にいた見知らぬ女子がそういい、ギャラリーの拍手をうけていた。 「なんだかよくわからないけど。お言葉にあまえとくね……?」 若干ひきぎみにそういうと、塩田はコートへと視線をやる。ちょうど、佐竹がコート内に入った所だった。
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