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佐竹 VS 佐藤
佐竹がゲームをするために、ラケットトスをしにネットぎわまでいった。ラケットヘッドを地面につけ、コマのようにまわす。ラケットがたおれた結果、サーブ権を佐藤がとり、コートを佐竹がとった。
佐竹は塩田らがいるコートにいき、レシーブにつく。むかいのコートにいる佐藤の顔や動きは、すこしみえづらい。偵察にはむいてない場所にいてしまったと、塩田はすこし後悔した。
「佐竹、がんばれ!」
塩田が佐竹の背中にむけてエールをおくる。
佐竹は片手をあげて、それにこたえた。
主審がコールする。
「ザ ベスト オブ 1ゲームマッチ 佐藤サービス トュー プレイ!」
佐藤がボールを地面にバウンドさせる。しばらくボールをついたあと、それをつかみ、まうえへとなげた。ラケットを構えて、コートを左右に分ける縦のラインぎりぎりに、ボールをふりおとす。
うった、と思った時にはワンバウンドしたあとで、佐竹のよこをボールが通りすぎ、金網にがしゃんとあたった。
「はっええ……」
佐竹がうしろをふりむき、ボールをみる。
「佐竹、どんまい! 動きをコンパクトにして打てばいけるよ!」
塩田がアドバイスをおくる。
「んなのわかってるし。ちょっとびびっただけだって。次はとーる!」
佐竹はコートに入り、|サーブが打てる範囲内の外角側《ワイド》から2・3歩うしろにたつ。ラケットをまえに構えて少し前屈みになり、佐藤のサーブをまつ。
主審がコールする。
「15ー0!」
一方、佐藤はコートを左右に分ける縦のラインぎりぎりに、サーブをうってきた。佐竹がそれをうとうとワンバウンドしたボールを、ラケット面にあてようとする。
「重っ!」
しかし、思った以上に重たいボールだったため、ラケットごとボールにはじかれてしまった。
「あっぶね、ビックリしたー」
佐竹はあぜんと、ふきとばされたラケットとボールをみた。
主審がコールする。
「30-0!」
金網ごしに心配そうな顔をした塩田が、佐竹にきく。
「佐竹、手首大丈夫?」
「んー、平気じゃね?」
手首をぶらぶらさせながら、佐竹はいう。
「大会前なんだから、ケガにはきをつけて」
なおも心配する塩田に、佐竹がつっこんだ。
「おまえは俺の母ちゃんか!
大丈夫だよ。つぎは両手でいく。」
コートを左右に分ける縦のラインからななめに数歩さがった所にたち、佐竹が構える。
またもや同じ、コートを左右に分ける縦のラインぎりぎりに、サーブをうちこんでくる佐藤。
「いい加減、バカの一つ覚えみたいに同じ所うってくんなよな!」
佐竹は素早くバウンドしたボールをおう。両手でラケットをもち、ラケット面にボールをあてる。
バインと音がなり、相手コートへとボールがかえる。
そこにはネットぎわにでてきた佐藤がいて、ノーバウンドで佐竹の足元をねらって返してくる。
「クソったれえ!」
佐竹がふったラケットが空ぶり、ボールは佐竹の足の間をぬいた。再びがしゃんと金網にボールがぶつかる。
主審がコールする。
「40-0! あと1ポイントで勝利!」
「うそだろ、まだ1ポイントも返せてねぇ!
やばっ!」
佐竹が少しあせったようにつぶやき、リターンについた。
「マジで気合いいれねーと、だせぇわ」
佐竹がフーッと息をはく。ラケットを前に構え、サーブがくるのをまつ。
「佐竹! まだ勝機はあるんだから、がんばって!」
塩田は金網をつかみ、前のめりで応援してくる。それには少しはずかしさを感じつつ、佐竹は集中した。
佐藤は相変わらず、コートを左右に分ける縦のラインぎりぎりに、サーブをうちこんでくる。
佐竹はそれをラケット両手うちで返し、コートの縦の長さを決める奥のラインまでさがった。
佐竹の足元を狙って、ボールがとんでくる。
コートの縦の長さを決める奥のラインから3歩さがったところで、両手うちでうちかえす佐竹。
そのままお互いにひかず、うちあいに発展する。佐藤はネットぎわにでて、ノーバウンドで佐竹のボールを返してくる。一方佐竹は、そのボールを両手でうち返す。コートの左右にボールをふり、体力を削る作戦だ。
しかし、どこへうっても佐藤がボールを拾うため、せめあぐねていた。
(一か八か、前にいってみるか!)
佐竹はボールをうち返したあと、ネットぎわによって、ふたたびボールをうち返した。
ネットぎわのノーバウンドでの早い球のうちあいに、みているギャラリーも息をのむ。
「あっ!」
佐竹の足元にボールがおちてワンバウンドし、体のよこを通りすぎていく。
それをみて、しまったという顔でボールをおう佐竹だったが、まにあわず。無情にも主審のコールがコートにひびきわたる。
「ゲーム セットアンドマッチ 佐藤 1-0!」
拍手がなりひびくなか、佐竹が塩田のほうをみてペロッと舌をだす。そしてネットぎわまで握手をしにいった。
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