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「塩田! 相変わらず凄いギャラリーだな」
佐竹はバシっと、塩田の背中をたたく。それをネット越しにみていたギャラリーが、佐竹にブーイングを飛ばす。佐竹は身を縮めた。
「おーこわ。強火の塩田ファンは、おっかないねぇ」
佐竹はそそくさと逃げるように、それぞれのコートを間仕きるようにひかれている、ネットの前に移動した。そこに置いてあるタオルやペットボトルを手にする佐竹と塩田。
「俺に強火のファンなんていないから。
コーチの腕がいいから、みんな気になって見学してるだけだよ」
タオルで汗をふき、ペットボトルに口をつける塩田の姿にギャラリーがわく。
「これでもか?」
ギャラリーを指さし、物言いたげに塩田をみる佐竹。
「あー、それはなんていうか。昔からなぜか人に囲まれやすいんだよ、俺の血筋。よくも悪くも目立つというか」
「確かにそのへんのアイドルよりか、塩田は美形だからな。目立つのもわかる!
美形でテニスもできて、勉強も出来るとか、神様は不公平だ!
なんか弱点とかないの? ここだけの話」
佐竹は期待に満ちあふれたまなざしで、塩田をみた。
「テニスも勉強もそこそこだよ」
ポンと佐竹の頭に手をやる、塩田。
「嘘だぁ! 塩田、弱点らしいとこ全然ないじゃん! 美形すぎてキスぐらいならできるぞ、俺は!」
塩田は目を丸くし、自身を抱きしめてみせる。
「違う、俺がホモとかそういうことじゃなくて。弱点がなさすぎて、つけ入る隙がないっていうか!」
ペットボトルで塩田をさす佐竹に、塩田が笑う。
「あはは。苦手なものくらい、いくらでもあるよ」
「例えばなんだよ?」
佐竹はずいっと、塩田につめよった。
「俺、ゴキブリだめなんだよ。
あと、料理とか家事全般できないかな。やろうと思えばできるけど、それでも付け焼き刃だし。専業主婦の母さんには勝てないよ」
少しはにかむ塩田に、佐竹の胸はきゅんとなる。もちろん、二人のやりとりに耳をすませていたギャラリーも、きゅんとなっていた。
「佐竹は? なにか弱点とかないの? 教えて」
佐竹の顔をのぞきこむように首をかしげる塩田に、真っ赤な顔をして佐竹がさけんだ。
「もうお前、顔が良いこと自覚しろ!
ホレちまったらどうするんだよ!」
佐竹の発言にわく、ギャラリー。
ギラギラした目でこちらをみている。
「あはは。佐竹ノリいいなぁ」
無邪気に笑う塩田に、佐竹は毒気を抜かれた。ペットボトルを元の位置にもどし、タオルで汗を拭うと、ペットボトルの上に投げ捨てる。
塩田も佐竹の荷物の横へ、ペットボトルと畳んだタオルを置いた。
「そろそろ休憩終わるぞ~!」
コーチの号令で、コートへと入っていく塩田たち。
ギャラリーが見守るなか、練習が再開された。
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