16人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
都大会当日
都大会当日の朝。
ベッドのなかで、すやすやねむってる塩田の耳に、スマホのアラーム音がきこえる。
「んー……」
てさぐりでスマホをさがす塩田。
指の先にスマホの角があたり、片手でつかむと画面をみる。
よこになったままあくびをして、塩田はおきあがった。
大きくのびをして、意識をきりかえる。パジャマからジャージにきがえ、家をでた。
塩田のいつものルーティンだ。早朝の5キロ走りこみをして体力をつける。
足をすすめて走りだすと、心がはずむ。
(今日、佐藤と大舞台で勝負できる! ワクワクする……!)
なにかがおこりそうな予感を胸に、塩田はいつものルートを走っていった。
5キロ走りおわったあと、家にかえる塩田。
そのまま風呂場に直行して、シャワーをあびる。ひととおり体を洗ったあと、塩田は熱をさますように、冷たい水をあびた。
(少しおちつかなきゃ。冷静に、冷静に。
やれることはやった。大丈夫、きっと……)
塩田は蛇口をしめた。
せっけんのにおいをただよわせながら、塩田がリビングにいくと、専業主婦の母・茉莉花が弁当をつくっていた。
「おはよう、翔」
「おはよ」
ハーフで金色の髪に青い瞳が美しい彼女は、どことなく塩田に似た面影の目鼻だちがととのった美人である。
塩田が食卓にすわると、すでに朝食がならべてあった。
「いただきます」
手をあわせたあと、たべはじめる塩田。
台所でお弁当をつくりながら母がきいた。
「今日だっけ。部活の試合があるの。」
「うん。そうだけど。それがなに?」
野菜スープをのみながらきき返す塩田。
「お目当ての子がでるんでしょ? ママも応援にいっちゃおうかな~?」
むせる塩田。
「あら大丈夫?」
塩田は片手で母を制していった。
「こなくていいから!」
すこし不満そうに頬をふくらませて抗議する母。
「えー、みにいっちゃダメ?」
首をかしげてうるんだ瞳で塩田をみる母。
「ダメ。集中できなくなるから。テニス部の代表としてでる以上、勝ちたいし」
「勝てそうなの?」
食パンにかじりつく塩田に、無垢な質問をしてくる母。
「わからないから、集中したいんだよ」
もぐもぐ食パンをほおばる息子の姿に、母はニコッと笑ってこう返した。
「勝てるわよ! 翔、とーっても努力してるの、ママ、しってるもの!」
毒気をぬかれた塩田は、母から顔をそらした状態でボソッといった。
「……ありがと」
「ふふっ、どういたしまして。ほら、お弁当、できたわよ」
弁当の蓋をしめて、小さな手提げ袋にいれ、塩田が座っている食卓の机に弁当箱をおく母。
「しっかりたべて、たくさん動いてきなさい!」
親指をたててそういう母に、塩田は言葉少なめに返した。
「ん。やれるだけやってみる」
頭をまぜっ返されながらも朝食をおえた塩田。
「ごちそうさま」
軽く手をあわせると、シンクに皿をおいて自分の部屋へと戻った。テニス道具一式とスポドリ、タオル、制汗シート、お弁当をテニスバックにいれて玄関にむかう。
いざ、戦場へ。
塩田の胸はドキドキワクワクしていた。
最初のコメントを投稿しよう!