都大会当日

1/2

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ

都大会当日

都大会当日の朝。 ベッドのなかで、すやすやねむってる塩田の耳に、スマホのアラーム音がきこえる。 「んー……」 てさぐりでスマホをさがす塩田。 指の先にスマホの角があたり、片手でつかむと画面をみる。 よこになったままあくびをして、塩田はおきあがった。 大きくのびをして、意識をきりかえる。パジャマからジャージにきがえ、家をでた。 塩田のいつものルーティンだ。早朝の5キロ走りこみをして体力をつける。 足をすすめて走りだすと、心がはずむ。 (今日、佐藤と大舞台で勝負できる! ワクワクする……!) なにかがおこりそうな予感を胸に、塩田はいつものルートを走っていった。 5キロ走りおわったあと、家にかえる塩田。 そのまま風呂場に直行して、シャワーをあびる。ひととおり体を洗ったあと、塩田は熱をさますように、冷たい水をあびた。 (少しおちつかなきゃ。冷静に、冷静に。 やれることはやった。大丈夫、きっと……) 塩田は蛇口をしめた。 せっけんのにおいをただよわせながら、塩田がリビングにいくと、専業主婦の母・茉莉花が弁当をつくっていた。 「おはよう、翔」 「おはよ」 ハーフで金色の髪に青い瞳が美しい彼女は、どことなく塩田に似た面影の目鼻だちがととのった美人である。 塩田が食卓にすわると、すでに朝食がならべてあった。 「いただきます」 手をあわせたあと、たべはじめる塩田。 台所でお弁当をつくりながら母がきいた。 「今日だっけ。部活の試合があるの。」 「うん。そうだけど。それがなに?」 野菜スープをのみながらきき返す塩田。 「お目当ての子がでるんでしょ? ママも応援にいっちゃおうかな~?」 むせる塩田。 「あら大丈夫?」 塩田は片手で母を制していった。 「こなくていいから!」 すこし不満そうに頬をふくらませて抗議する母。 「えー、みにいっちゃダメ?」 首をかしげてうるんだ瞳で塩田をみる母。 「ダメ。集中できなくなるから。テニス部の代表としてでる以上、勝ちたいし」 「勝てそうなの?」 食パンにかじりつく塩田に、無垢な質問をしてくる母。 「わからないから、集中したいんだよ」 もぐもぐ食パンをほおばる息子の姿に、母はニコッと笑ってこう返した。 「勝てるわよ! 翔、とーっても努力してるの、ママ、しってるもの!」 毒気をぬかれた塩田は、母から顔をそらした状態でボソッといった。 「……ありがと」 「ふふっ、どういたしまして。ほら、お弁当、できたわよ」 弁当の蓋をしめて、小さな手提げ袋にいれ、塩田が座っている食卓の机に弁当箱をおく母。 「しっかりたべて、たくさん動いてきなさい!」 親指をたててそういう母に、塩田は言葉少なめに返した。 「ん。やれるだけやってみる」 頭をまぜっ返されながらも朝食をおえた塩田。 「ごちそうさま」 軽く手をあわせると、シンクに皿をおいて自分の部屋へと戻った。テニス道具一式とスポドリ、タオル、制汗シート、お弁当をテニスバックにいれて玄関にむかう。 いざ、戦場へ。 塩田の胸はドキドキワクワクしていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加