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テニス部員と現地集合の約束をしていた塩田。相変わらず街を歩くだけで人目をひきつけ、周囲にドーナツ状の人混みをつくる。スマホを片手にもち、会場の入り口付近でまつ塩田。すると同じく大名行列をつくって歩いている佐藤とすれ違う。が、塩田は人ごみのなかにいて外からはみえずに佐藤にスルーされた。人ごみのなかにいる塩田もまた外の景色がみえずにスルーしていた。
この後二人は、コートのなかで激闘をくり広げることになるのだが、この時はまだそれをしるよしもない。
そんななか、塩田をとり囲む人ごみに侵入する人物が。
「塩田ー! 塩田はここかぁ!」
平泳ぎの要領で、無理やりなかにわり込む形で入る西宮。
輪の中心にいた塩田がそれをみて、慌てて西宮にかけよる。
「西宮! おはよう。大丈夫?」
「すこし疲れたが、俺はいたって健康だ!」
親指をたてて笑顔でいう西宮。塩田はほっと息をはいた。
「他の部員は、もうなかに入って受付をしてるぞ! 塩田もいくぞ!」
人ごみからぬけだそうと、力業で人をかきわけようとする西宮。その肩を掴み、首をふる塩田。
「俺に任せて。
あのお願いだから、道をあけてくれないかな。
これから大事な試合があるんだ」
周囲をとり囲んでいる女子にむかって、上目づかいで手をあわせていう塩田。その姿にきゅんとなり、その場で失神する女子たち。結果、みはらしがよくなった。
「えっ。ど、どうしよう!」
とまどう塩田。西宮が肩にぽんと手をおいた。
「塩田。お前、なかなかのテロリストだな!」
「えっ、これ俺のせいなの? なんで?」
塩田は驚いて、そばで倒れていた女性に声をかけた。
「あの、おケガはありませんか?」
女性の目線にあわせるように方膝をついてしゃがみ、キラキラオーラ全開で女性の手をとる塩田。女性が鼻血を噴射して気を失ったのはいうまでもない。
「塩田。恐ろしい男よ……」
「えっ、なんで倒れるの? 西宮どうしよう。二人でこの人数を運ぶのはちょっと大変だよ!」
西宮がスマホを、ズボンのポケットからとりだした。
「しょうがない。きゃつらの力をかりるか!」
「きゃつらの力?」
目を丸くしてたずねる塩田。スマホ画面をみせる西宮。
そこには塩田翔ファンクラブの、グループチャット画面が。
「ファンクラブはいったんだ……意外。」
ポツリという塩田。自信満々で返す西宮。
「はいった方がメリットがあったからな! では電話します!」
「えっ、電話?」
「あ、もしもし会長ですか? じつは塩田がまたキラキラテロをおこしまして。ええ。至急人数をつれて、入り口まできてくれますか? 処理を頼みます!」
ピッと電話を切った西宮。爽やかな笑顔で状況説明をする。
「ファンクラブのメンバーが、失神した塩田のファンをみてくれることになったぞ! だから塩田は気にしなくていい! おっ、もうきたか! こっちだ!」
腕をブンブンふって合図を送る西宮。
ぞろぞろと腕章をつけた女子のむれが、塩田たちの元へとむかう。
「塩田くん! 大丈夫だった?」
先頭をきって塩田にかけよってくる女子に、塩田は答えた。
「俺は大丈夫だけど、まわりが急に倒れちゃって……。病院につれていった方がいいかな?」
困った顔をする塩田に、その女子はいった。
「ここは私に任せて! 塩田翔ファンクラブ会長として、うまく処理してみせるわ!」
「ありがとう。俺も手伝うよ!」
手をだそうとした塩田の手を掴み、まったをかけたのは西宮だった。
「塩田は早く中に入って、選手登録しにいかないといけないぞ! 時間がないんだ、急ぐぞ!」
「えっ、でも倒れた人らは……?」
「ファンクラブメンバーに任せとけば、大丈夫だ!
会長。あとはよろしくお願いします!」
塩田の手をつかんだまま、敬礼をする西宮。敬礼を返す、ファンクラブメンバー。
「塩田くん。気がかりかもしれないけど、ここは私たちに任せて。塩田くんは試合にむけて集中してね!」
ファンクラブ会長がそういうと、塩田が少し困った顔をした。
「塩田ァ! いくぞ!」
塩田の手をひき先へと進もうとする西宮。しかし塩田は動かずにファンクラブメンバーに頭を下げる。
「ごめん。男手が必要なのにまかせきりになっちゃって。彼女らのこと、よろしくお願いします!」
「塩田、時間がない、急ぐぞ!」
「う、うん。このお礼はまた後日……」
「お礼はもう予約済みだから気にしないで!」
凄くよい笑顔で、ファンクラブ会長が親指をたてていった。
「えっ、それってどういう……」
「塩田ァ、まじで急ぐぞ。あとで俺が教えてやるから。さっさといくぞ!」
西宮にひっぱられる形で、その場をあとにする塩田だった。
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