ダブルス1

1/3

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ

ダブルス1

「あー! 負けたー!」 声をハモらせながら、磯山ツインズがスタンド席に戻ってきた。 磯山小太郎が、西宮に頭を下げる。 「すいません、ぎりぎり勝てませんでした!」 磯山小次郎が、宮前に頭を下げる。 「すいません、勝ってイーブンにしてください!」 西宮と宮前が顔を見合わせ、うなづく。 西宮が片手で親指をたてながら、言う。 「任せとけ! 1勝して一笑(いっしょう)に付してやる!」 宮前が片手に握りこぶしを作って、言った。 「部長の言う通り! 勝って次に繋げます!」 磯山ツインズがハモりながら拍手した。 「おー!」 「これからダブルス1の試合を始めます。出場選手はコートにあつまってください」 審判のアナウンスが聞こえ、西宮と宮前がスタンド席からコートの中へと入っていった。 「ここで踏ん張って勝たないと、あとが厳しい。西宮と宮前、プレッシャーが半端ないだろうな、いま」 佐竹が、西宮・宮前ペアの背中を見送りながら言った。 「そうだね。だけど、勝つんじゃないかな。それだけの意気込みをもって、今まで練習してきたんだろうし」 塩田は祈るような気持ちで二人の背中をみる。 そして試合が始まった。 ラケットトスの結果、西宮・宮前ペアが返球する方(レシーバー)になり、コートは変わらずそのままとなった。 レシーブ位置についた西宮が前屈みになり、くるくるとラケットの柄を回す。 サーブが打たれ、コートを左右に分ける縦のライン(センターサービスライン)に沿うようにボールが弾む。西宮がそれをテンポよく打ち返した。前衛にいる宮前が西宮のフォローに入り、打ち返されたボールを |縦のライン方向に角度をつけてノーバウンドで打ち返す(アングルボレー)で返してワンポイント先取した。西宮と宮前が片手でタッチする。 「やった!」 それをみていた塩田と佐竹も、その場でハイタッチする。 その後も拮抗した試合展開となった。 ポイントをとれば相手も取り返し、の繰り返しで、現状、30-30でポイントはイーブン。先に2ポイント先取した方が1ゲーム目をとる。 後衛の西宮と相手の後衛が打ち合っているなか、前衛にいる宮前がタイミングをみて割り込み、|縦のライン方向に角度をつけてノーバウンドで打ち返す(アングルボレー)を決める。 「おお、また決めた! 宮前、|縦のライン方向に角度をつけてノーバウンドで打ち返す(アングルボレー)の名手だな!」 佐竹が思わず腰を浮かせ、前のめりになって言う。 「あと1ポイント、頑張れー!」 塩田が声をはる。 サーブする側が有利とされるテニスで、相手サーブでの1ゲーム先取は、相手にプレッシャーを与えることができる。 「ここが決め時だね」 塩田が息をのんで西宮の背中を見守る。 相手は西宮と宮前の連携を崩そうと、|サーブが打てる範囲内の外角側《ワイド》に打った。 ボールを追いかけて西宮がコートの外へ追いやられる。代わりにコートの真ん中に宮前が立ち、フォローに入った。 西宮がなんとか、そのボールを空高く上がり、ゆみなり落ちてくる球(ロブ)で返す。 相手の前衛が上からボールを打ち下ろす技(スマッシュ)の体勢に入る。 コート内に戻ってきた西宮が上からボールを打ち下ろす技(スマッシュ)に備え、後方でラケットを構える。 相手の前衛が、左斜め後方に上からボールを打ち下ろす技(スマッシュ)を落とす。 それに合わせて西宮が動き、ボールを斜め(クロス)に打つ。 内と外の縦のラインの間(アレーコート内)にボールがはねる。前衛にいる相手が慌てて打ち返すが、ボールをネットにぶつけて返球に失敗し、西宮・宮前ペアに1ポイント入った。 最初のゲームを先取したのは、西宮・宮前ペア。この調子で次のゲームも取りたいところだ。サーブを打つのは西宮である。 こんこんと軽く地面にボールをバウンドさせると、そのままボールを真上へあげ、ラケットでボールを打つ。しかし、ネットにボールがぶつかり、サーブミスをしてしまう。 「フォルト!」 主審がコールする。 「西宮! 落ち着いて打つんだよ!」 監督が声をはる。 西宮が後ろを振り返り軽くうなづくと、サーブを打った。 ボールはコートを左右に分ける縦のライン(センターサービスライン)に沿うようにバウンドする。 相手がそれを打ち返し、前衛にいる宮前がノーバウンドで打ち返す技(ボレー)でそれを打ち返す。 しばらく前衛同士でノーバウンドで打ち返す技(ボレー)でのやりあいが続く。しかし宮前がボールを取りこぼしてしまい、相手にポイントが入ってしまう。 「ドンマイ!」 佐竹が声をはる。 その後も、ポイントをとったり取られたりして先に2ポイント先取した方が勝ち(デュース)になった。 「ここで取っときたいよな。あー手が震える」 佐竹が前屈みになって両手を組む。 「決め時だね」 真剣な表情で西宮の背中をみる塩田。 しかし、西宮がサーブミスを二回立て続けにしてしまい、相手にポイントが入り、A(アドバンテージ)をとられてしまう。 「西宮、集中! まだ取り戻せるよ!」 監督が激をとばす。 フーッと深く呼吸してから、西宮はサーブを打った。 ボールは|サーブが打てる範囲内の外角側《ワイド》に打たれ、地面を横にバウンドし、相手ペアの返球する人(レシーバー)をコート外に追い出すことに成功する。 そのまま相手ペアの返球する人(レシーバー)が反応できず、西宮・宮前ペアに1ポイント入る。再び先に2ポイント先取した方が勝ち(デュース)になる。 「頑張れー! 西宮!」 塩田が叫ぶ。 「踏ん張れ!  部長!」 磯山ツインズが声をハモらせて応援する。 「ここでビシッと決めてやんな!」 監督も声をはる。 とんとんと軽く地面にボールをバウンドさせ、そのボールを真上に投げてサーブを打つ西宮。今度もボールは|サーブが打てる範囲内の外角側《ワイド》に打ち、横へバウンドし、相手ペアの返球する人(レシーバー)をコート外に追い出す。それに合わせてコート内に入る西宮。相手ペアの返球する人(レシーバー)空高く上がり、ゆみなり落ちてくる球(ロブ)で返してくる。そのボールを後衛で構えていた西宮が上からボールを打ち下ろす技(スマッシュ)で打ち返す。 西宮・宮前ペアにポイントが入り、A(アドバンテージ)をとった。 あと1ポイントとれば、2ゲーム目も先取できる。緊迫するなか、西宮がサーブを打った。しかし、ネットにボールがぶつかり、再びサーブミスをしてしまう。 「フォルト!」 主審がコールする。 「西宮ー、緊張すんな! オメーは1人じゃねーんだからよー! 宮前を信じて打て!」 赤星がスタンド席から立ち上がって叫ぶ。 スタメンが、それぞれ西宮に声援をおくる。 西宮が手をあげ、それに答える。 ボールが宙を浮き、それをラケットで打ち落とす。ボールは内側にある縦のライン(シングルスライン)に沿ってまっすぐにはね、相手ペアの返球する人(レシーバー)が早さに反応できなかった。 西宮・宮前ペアに1ポイント入り、2ゲーム目も先取する。コート内でハイタッチする、西宮・宮前ペア。 「やった!」 塩田も佐竹と、その場でハイタッチをして喜んだ。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加