16人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「ああっ! 肝心なところでまたゲームをとられた!」
頭を抱える佐竹に、西宮が親指をたてて笑う。
「田辺のミラーテニスの進化は、後ひとつある!」
「進化……とは。」
「見てればわかる!」
説明になってないセリフを残して、西宮は再びコートに目をやった。
田辺のサーブで始まったゲーム。打った場所は真逆の方向。相手がそれに合わせて返球すると、真逆の方向に打ち返す田辺。相手がなんとか追い付いて打ち返す。そのまま反対方向へと進む、対戦相手。しかし、同じ場所に田辺が打ち返し、ボールを取り損ねてしまう。
「あれ? リターンに少しバリエーションが出来てる?」
塩田がぞろぞろと強火のファンを引き連れて、恋仲中のスタンド席に帰ってきた。
「塩田!」
嬉しそうに塩田を迎える、佐竹。
塩田ファンクラブのメンバーは肩で息をしていて、死屍累々だ。
スタンド席の最上段へと戻り、へたっている。
「塩田。アップ、激しかったのか?」
塩田はキョトンとして、言った。
「そんなことないよ。軽く流して走った後、簡単なボレーやサーブ、スマッシュ練したぐらいかな」
佐竹はファンクラブのメンバーをみて、頷いた。
「なるほど、結構なスピードで走ったんだな……」
「そんなことないけど」
笑いながら塩田は、佐竹の右隣に座った。
「試合はどんな感じ?」
「見ての通り接戦。一応、5-4で勝ち越してる。ここで勝てば、塩田の番で勝敗が決まるから、緊張する一戦だよな! 精一杯応援して、勝てるように祈っとこうぜ」
にっと笑う佐竹。
「そうだね。ここで勝ってくれると、気持ち的に楽になるし、モチベも上がるかな」
汗拭きシートで汗をぬぐいながら、塩田が言う。視線はコートの中へと移る。
最初のコメントを投稿しよう!