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シングルス2
コート内に入った塩田は、同じくコート内に入ってきた佐藤と目があう。ラケットトスをするために、ネット際に集まる二人。最初に声をかけたのは佐藤だった。
「よう、塩田。いっちょもんでやるか。覚悟しとけよ、王子様?」
上目使いでにっと笑う佐藤。そんな佐藤を見て、塩田はまっすぐ佐藤を見た。
「王子様って、誰のこと? 王様なら知ってるけど。」
思わずずっこけそうになる佐藤。
「お前だ、お前! うちの学校でテニスがうまい王子様だって言われてるんだよ!」
塩田は自分を指差し、キョトンとした顔で佐藤に聞いた。
「俺?」
「そう。塩田。」
うなづく佐藤。
「なんかそれって、王様より下っぽくてやだな。今日は王様の冠、奪う気でいくからよろしく」
口元に笑みを浮かべる塩田。
「ーー言うじゃん。」
二人の間に火花が散る。
「じゃー、さっさと試合しようぜ。正位置か、逆位置、どっちだ?」
佐藤がラケットヘッドを地面につけながら、塩田を見て聞いた。
「験担ぎで逆位置かな」
「じゃあ俺は正位置か。回すぞ」
ラケットヘッドを地面につけながら、駒のようにラケットを回す佐藤。
ラケットが倒れ、結果は正位置だったので、佐藤がコートかサーブ権を選ぶ権利をえた。佐藤が倒れたラケットを拾いながら言った。
「サーブ権、貰うぜ。コートはどうする?」
「コートはこのままで。それじゃ、よろしく」
二人は拳同士をぶつけ合うと、背を翻し、それぞれ指定のポジションに向かう。
塩田は佐藤のサーブの早さを警戒し、コートの縦の長さを決める奥のラインより1メートルくらいさがったポジションでラケットを構える。
審判のコールがあり、試合が始まった。
佐藤がサーブを打つが、ネットに当たり、逆戻りしてしまう。
「ちっ!」
佐藤は気持ちを切り替えるために、ボールを地面にバウンドさせる。しばらくするとボールを真上に投げ、サーブを打つ。ボールはネットを越え、地面にぶつかり、真上へとバウンドした。
慌てて塩田がボールの側へと駆け寄り、ラケットの中心にボールを当てて打ち返す。
斜めに打ち返されたボールの先に佐藤が待ち構えており、同じく斜めに打ち返した。ボールがネットを越え、塩田の足元に落ちる。塩田がそれを拾い、スライス回転をかけてネット際におとす技を打つ。
佐藤はネット際に落ちるボールに対応できずに、ボールがコートに転がるのを見た。
審判がコールする。
「0-15!」
佐藤がスロースターターなのは、この1球で塩田も実感した。ボールの早さが、以前試合したときより遅いのだ。
(さて。勝つには、先行逃げ切りをするしかないかな)
返球位置に立ち、ラケットを構えながらぼんやりとこのあとのゲーム展開を考える塩田。
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