佐藤と塩田

シングルス2

佐藤のサーブが、地面をバウンドする。塩田に向かって、勢いよくボールが飛んできた。
塩田はその勢いを活かしてコンパクトにそれを打ち返す。
まっすぐ(ストレート)に打ち返されたボールは、そのまま佐藤の足元にバウンドする。佐藤が後ろ向きに走り、ボールを追い越すような形でボールを打ち返す。
それに合わせて塩田はネット際につめ、|縦のライン方向に角度をつけてノーバウンドで打ち返す技(アングルボレー)を決めた。
「0-30!」
審判がコールする。
佐藤がサーブ位置につき、地面にボールをバウンドさせる。塩田はかわらず、佐藤のサーブの早さを警戒して、コートの縦の長さを決める奥のライン(ベースライン)より１メートルくらいさがったポジションでラケットを構えている。瞳は佐藤を見たまま、くるくるとラケットを回す塩田。
佐藤がサーブを打った。
あっという間に相手コートのサーブが打てる範囲(サービスコート)内をバウンドし、斜めへ飛んでいくボール。
塩田はそれを追い、コートから離された位置へと移動する。そのまま斜め(クロス)に打ち返し、しばらく打ち合い(ラリー)が続いた。
しかし、佐藤が打った球がネットに引っ掛かり、塩田にポイントが入る。
審判がコールした。
「0-40!」
塩田がレシーブ位置についたのを確認して、佐藤がサーブを打つ。
ネットを越え、地面にバウンドするボール。塩田の足の間を通過して、スタンド席へと飛んだ。
「あっぶねぇ……!」
赤星が口元をひきつらせながら、監督の顔に向かって飛んできたボールを、ラケットでガードした。ばいんと音がなり、田辺の後頭部にボールが直撃する。
田辺は後頭部を押さえながら、スタンド席の地面に転がるボールを手に取った。
後ろを振り返り、一段上の段に立っている赤星を恨めしげに見る。
「悪い、田辺。わざとじゃねぇから！」
ラケット片手に謝る赤星に、溜飲を下げる田辺。
「ごめん！　大丈夫？」
それを見た塩田が、スタンド席に向かって声をかけた。赤星が吠える。
「塩田!　てめぇ、全部打ち返せ!
ここにはボールを弾く金網がねーんだから、あぶねーだろ！」
塩田は少し困ったように笑顔で片手をあげて、ごめん、と謝った。
「そ、そんな顔して謝っても無駄だからな！　後ろに人がいること、気にしながら試合しろよ」
そんな塩田の様子を見て、耳を赤くしながら腕を組み、そっぽを向く赤星。内心塩田にきゅんとしたことは内緒である。
「わかった。出来るだけボールを拾うようにするよ。今のブレブレサーブのうちに、決着がつくようにね」
塩田は佐藤の方を見て言った。
「確かにこの前の試合した時と違って、サーブのコントロールが大雑把だ。地区大会の時も思ったけど、エンジンかかるまでに時間がかかるのは本当みたいだな」
真剣な表情で言う佐竹。
塩田が佐竹の方へと視線をやると、宮前から予備のラケットを借り、顔面を庇うように構えながらコートを見る佐竹の姿があった。
同じく磯山ツインズや田辺や西宮も、ラケットを取り出して顔面に当たらないように構えている。
「ちょっと、皆ひどい！
ちゃんと打ち返すってば！」
それを見てつっこむ塩田。
「塩田ァ！　これで万全の体制がとれたぞ！　思いっきり打ち合いをしても、大丈夫だからな！　頑張れ!」
西宮がラケット越しに叫ぶ。
「もー絶対、そっちにボールやらないから。意地でも。」
ぷくーっと頬を膨らませて、レシーブ位置につく塩田。そんな塩田を見て、ファンクラブの面々が黄色い声援をおくった。