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それを聞いたスタンド席では。
「ああー! 先に2ポイント先取した方が勝ちに戻ってしまった~!」
西宮が頭を抱える。
その横で神妙な顔で宮前が言った。
「塩田さん、ゴリゴリ体力削られてますね。両手打ちになってる……」
佐竹がそれに口を挟む。
「実際、佐藤のボールを打った身としては、当然の対処だと思う。ボールが重すぎて、片手で打ってたら手首痛めるからな。片手であの打球を打ってくる佐藤が化けもんなんだよ」
べっと舌を出す佐竹。
監督が腕を組みながら言った。
「とはいえ、まだ本調子ではない佐藤相手に、どれだけポイントを先取れるかが重要なところだよ。今のままだと粘り負けしてしまう。塩田にも気合いをいれて粘ってもらわなきゃいけないねぇ」
佐竹がげんなりして肩を落とす。
「本調子じゃないのに、あんな重い球を打てる佐藤がおかしいんだよ。弱点らしい弱点もないし、塩田もどう攻めればいいか悩んでるだろうな」
佐竹の言葉に、スタンド席の空気が重くなる。
監督がパンパンと手を叩き、言った。
「そこは塩田の実績を信じて応援するしかないよ! ほらほら、落ち込んでないで声だしてきな!」
そんなやり取りがされているとは露知らず、塩田はかつてないほどの集中力を発揮していた。
周囲の雑音は聞こえず、ただボールが弾む音や打球音だけが聞こえる。佐藤の動きも心なしかゆっくりに見える。
ーーいける!
塩田はボールを真上にあげ、サーブを打った。
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