16人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
そんなさまざまな思惑がとびかう教室に、大声でさけびながら駆けこんでくる生徒が一人。
「塩田ァ。塩田翔はいるか!」
テニス部部長の西宮が、モーゼのように人だかりを左右に分けつつ、教室に入ってくる。
「ちょっとアンタ、いきなりきて何なのよ!
塩田くんのこと、なれなれしく呼びすてにして!」
塩田の机のまわりに集まっていた女子の一人が、西宮から塩田をかばうように前へ出た。
「そこをどけ。塩田に大事な話があるんだ!」
手でなぎ払うようにしてさけぶ、西宮。
塩田の取り巻きである女子は、ひるみもせず腕を組む。
「どうせまた、テニス部の勧誘にきたんでしょ?
塩田くん、何回も断ってるじゃない!
いいかげん、諦めなよ!」
そーだ、そーだと塩田のまわりにいた取り巻きも、西宮につめより、とり囲んだ。
「ええい、どけ!
本当に、大事なお願いをしに来たんだ。ひかないと泣いちゃうぞ!
塩田にいじめられたって、先生に言うからな!
そうなったら、推薦で行くはずの高校、行けなくなっちゃうぞ! いいのか、それで!」
それを聞き、西宮をとり囲んでいた輪がほころんだ。西宮はその隙をついて、ほころびから輪の外へ脱出した。そのまま塩田の机の前にたどり着くと、バンっと机をたたいて叫んだ。
「塩田、一生のお願いだ! 俺と一緒に大会に出てくれ!」
真剣なまなざしで、塩田をみる西宮。塩田は、少し困ったように微笑んだ。
「西宮。わるいけど、それはできないよ」
西宮は、目をくわっと見開いた。前のめりになって、塩田に詰めよる。
「なぜだ、理由を聞かせてくれ!」
人々が見守るなか、塩田は口を開いた。
「大会に出るってことは、入部してレギュラーになれってことでしょ?
今までろくに練習に参加してなかった人間が、急にレギュラーになったら、部員からも反発が出てくると思うんだ。
今年最後の大会、ギスギスしたままで終えるのは西宮の本意ではないと思う。
だから、断るよ」
その時、西宮の目が光った。
「その点においては大丈夫だ!
みな、塩田の参加を認めてくれた!
別に無理に練習に参加しろとか、入部しろとかいうんじゃないんだ!
仮入部でいいし、今度の試合、1回だけ出てもらえればそれでいいんだ!」
塩田は目を丸くした。
「1回だけ?」
「そう。次の試合、1回だけシングルス2で出てもらえればそれでいいんだ!
頼む、塩田じゃなきゃダメなんだ!」
机に手を置き、ガバッと頭を下げる西宮。
「なにか理由がありそうだね。聞いてもいい?」
首をかしげながら、西宮の顔をのぞきこむようにして聞く、塩田。
「塩田ァ、聞いてくれるか!」
西宮は塩田にすがるように抱きつきながら、ことのいきさつを話始めた。
最初のコメントを投稿しよう!