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「じつは、つぎの試合。初戦であたる相手が悪いんだ!」
西宮はとりまきの手によって、塩田からひきはがされた。塩田の机にしがみつき、テコでも動こうとしない西宮。
「たしかうちのテニス部も、そこそこ強豪だったはず。わざわざ塩田くん出さなくても、勝てるんじゃないの?」
西宮の肩をつかみ、塩田の机からひきはがそうとする女子が言う。
「初戦であたる王子中とは、ここ2年、僅差でいつも負けている。相手校の絶対的エースが強すぎるんだ! どうしても、あと一勝ができない……!」
西宮は負けじと机にかじりつき、精一杯、手をのばした。両手で塩田の手をつかむ。
「絶対的エース?」
塩田は、きょとんとした顔できいた。
「そうだ。名を佐藤拓磨という! 専門雑誌で何回も特集されている、期待の星だ! イケメンでなんでもできるから、テニスの王様ともいわれている!」
「テニスの王様……。そいつ、そんなに強いの?」
塩田の目に、負けずぎらいの炎がともる。
「強いなんてもんじゃない! セミプロレベルの腕前だ!」
「セミプロ……。へえ。ちょっと気になるね」
やる気になった塩田をみて、西宮の表情があかるくなる。
「気にしてくれるか!
ぶっちゃけいつも、佐藤がたおせなくて負けてるんだ! 佐藤さえなんとかなれば、勝ちこすことだってできる!
だから塩田、力をかしてくれ!
うちの学校で佐藤に勝てそうなのは、顔もふくめて、もう塩田しかいないんだ……!」
塩田の手に、すりすりと頬ずりする西宮。とりまきの女子が、ゴミをみる目で西宮をみる。
「わかったよ。大会の日付とかぶらなければでるよ。俺でよければ。」
西宮の頭をポンポンする塩田。
「塩田ァ! お前なら、そう言ってくれると思ってたぜぇ~っ!」
目から涙を、鼻から鼻水を流しながら言う西宮。少し困ったようにほほえむ塩田。
「ちょっと、西宮! 塩田くんをよごさないでよ!」
とりまきの女子らが、力づくで西宮と塩田をひきはなす。勢いあまって、塩田の前の席をまきこんで倒れた。
「大丈夫!?」
あわてて塩田がかけより、手をさしだす。
その手をつかもうとして、西宮ととりまきの女子らがおたがいの手をはたきあっていたのはご愛敬である。
「本当に大丈夫? 保健室、行く?」
しかし、身をかがめ、心配そうにきく塩田の圧倒的な王子様オーラに、そんな争いもすぐに収まるのだった。
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